研究課題/領域番号 |
19K01879
|
研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
森元 伸枝 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (70636422)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 産業集積 / 制度 / 人材育成 |
研究実績の概要 |
本年度は、理論的基盤の枠固めのために、産業集積論における制度慣行についてどこまでが明らかになっているのか、加えて、その制度に人材育成という視点がどのように組み込まれているのかについて文献研究を行った。これまでのところ、地域産業の継続的成長に向けた戦略としての位置づけに人材育成のしくみをおき、それが制度的慣行に要因があるという議論はなされているものの、その制度が環境の変化に対して慣行にどのような変化があり、それに対して地域産業の関連する人々の人材育成を通した協働のしくみまでは明らかにされておらず、分析枠組みをほぼ固めることができた。 調査に関しては、神戸の洋菓子産業を支え続けてきた原材料供給業者などの周辺企業、ならびに地域産業の担い手である洋菓子企業(均衡が保たれていた時代のオーナーパティシエ、均衡が保たれていた街の洋菓店舗の後継者、業界に揺らぎが生じ均衡が崩れた後に産業を支えている洋菓子企業経営者など)に、インタビュー調査を行った。まず、業界に生じている環境の変化ら自分たちの企業や店舗がどのような経営管理を行っているのか、そのなかで、どのような人材育成をしているのか、その人材育成のために地域や地域の関連企業となにか協働を行っているのかを探っていった。 インタビュー調査における発見事実は、各企業の経営者は、自身の企業の発展には、地域産業の継続的成長が不可欠であり、そのためには、まず産業を文化へと豊穣させなければならず、その文化へと豊穣するには地域という存在が不可欠であるという共通認識に基づいていることであった。この成果については、研究会等で報告し、さらなる知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、インタビュー調査からは、環境の激変により、洋菓子産業の担い手の人材育成のシステムがこれまでとは大きく異なっているにもかかわらず、新たな地域産業の担い手たちは、誰もがそれまでの人材育成のシステムを変化させつつも、均衡を維持しようとしているということが明らかになった。また、洋菓子産業を支え続けてきた原材料供給業者などの周辺企業も彼らに合わせるだけでなく、けん引していく形で育成に携わろうとしていることが明らかになった。しかしながら、その協働のしくみがまた明確になっておらず、追加インタビューや何らかの参与観察等の調査が必要であると感じている。 また、今年度は、地域産業比較調査対象である奈良や京都の職人たちのインタビューが、観光による多忙のためスケジュールがうまく合わずできなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、以下について研究を推進していく予定である。 まず、2019年における調査結果を踏まえて、新たな発見である共通認識をどのようにして人材を育成するしくみに組み込んでいるのか明らかにしていく。 神戸の洋菓子産業においては以前のように神戸で育成された職人が経営者になるだけでなく、他の地域で育成された職人が経営者になったり、異業種から経営者になるなど、さまざまなキャリアの人たちが存在している。神戸の洋菓子産業に関して異なった育成を受けてきた人々がいかにして地域産業の均衡を維持しようとしているのか、また、どのようにして地域産業の担い手を育てようとしているのかを構造的に明らかにしていく。 また、地域産業比較調査対象として、近年の環境変化を受けることで和菓子から洋菓子を地域産業化しようとしている京都や「かき氷」というカテゴリーで地域産業化している奈良、さらには、洋菓子を地域産業としてうまく発展させている北海道とも比較分析し、地域産業の継続的成長に向けた協働の仕組みを明らかにしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、学会参加のための旅費が残ったためである。2020年3月にオーストラリアシドニーで開催予定の国際学会(ICBEIT 2020 Sydney)は、コロナの影響でZoomによる学会開催となった。その旅費分である。 2020年度の研究費の使用計画としては、まず、調査のための旅費が挙げられる。具体的には、近距離の調査地域としては、神戸、京都、奈良である。昨年度協力が得られた企業への継続的な調査実施と、新たな地域の調査を実施するための旅費である。また、研究成果をまとめて国内外の学会で発表することも予定しており、そのための旅費にも使用する予定である。 次に、収集した資料やインタビューデータの入力等の作業のための謝金、菓子に関する専門家や制度に組み込まれた人材育成の実状に詳しい専門家への調査協力の謝金への使用も予定している。さらに、先行研究のレビューのための図書やデータ分析のためのソフトや記録のための電子機器などを購入するために、物品費への使用も計画している。
|