本研究は、阪神間の洋菓子産業を事例に地域産業における長期継続的成長にむけた人材育成システムが環境の激変によりショックを受けたとき、どのような協働によりそのシステムの均衡を維持しようとするのかを明らかにするものであった。地域産業は長期継続成長のために均衡状況を保つため、OJTに代わり、地域性(価値観や規律)を含んだ新たな人材育成システムを構築しているであろうということを仮説にした。その仮説を明らかにするため、地域産業を比較調査対象として奈良や京都のフィールドワーク、ならびに企業へのインタビューを行う予定であった。しかし、初年度は観光(特にインバウンド)によりインタビュースケジュールが合わず、昨年同様、本年度もコロナの影響でフィールドワークやインタビュー、参与観察を行うことが難しかった。 今年度、阪神間内の地域産業であり食文化産業である珈琲産業に着目した。近年よく聞かれるスペシャルティコーヒーを扱っている店舗が、阪神間に増えはじめ、行政も力を入れようとしているところにコロナがはじまった。そうした状況においても、売上を伸ばし、地域資源をうまく活用しながら、差別化並びにネットワークを構築していることがみられた。これは、昨年度、コロナによる新たな環境変化に対して、足を運ぶことが可能であり、インタビューを行った阪神間の複数の洋菓子企業と同じ状況、すなわち、コロナ禍においてコロナ以前より盛況となっていることであった。 このことから環境のショックにおいても、地域産業が維持・成長するためには、地域資源による地域性が人材育成のしくみに影響を与え、均衡状況を保っていることが垣間見られた。これについては『大手前大学論集』に掲載される予定(2022年8月刊行予定)である。
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