研究課題/領域番号 |
19K01884
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山野 泰子 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 助教 (90772674)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サプライチェーン / 企業取引の動態分析 / 供給リスク / ネットワーク構造解析 / クラスター進化 |
研究実績の概要 |
変動が激しくなった現代市場において、企業間の相互作用を捉え、変動に対する企業や地域クラスターの適応力を評価する社会的な要請が高まっている。新型コロナ感染症の拡大に伴う在宅勤務の広がりや、消費の衰えによる工場稼働の停止、国際物流の輸送遅延など、企業活動に大きな影響を及ぼす事例が各地で見られたことに加え、企業の社会貢献に対する世界的意識の高まりにより、サプライチェーンの途絶リスクは一層危機感をもって認識されることとなった。本研究では、企業の適応能力が企業間関係を安定的に維持する力だけでなく、柔軟に組み換える力にも依存している可能性に着目し、ネットワークを構成する要素間の動的推移と構造特性を捉える2つのノード指標である新陳代謝度とPW指標を提案した。さらに、それらを企業間取引ネットワークにおける企業単体及び密な取引関係を持つ企業群(クラスター)の評価に適用する枠組みを構築することで、地域の産業構造とその変動への適応力に関する新たな知見を抽出した。 令和4年度は、個別企業の動態分析を行う提案指標である新陳代謝度、およびネットワークの構造特性を捉えるPW指標を企業間取引ネットワークに適用した研究成果について、米国で開催された国際学会で発表した。学会での議論と得られたフィードバックを踏まえて論文を修正するとともにジャーナルへの投稿を行った。また、研究成果の書籍化に向けて申請していた出版助成に採択されたことで、次年度の出版に向けての準備が着実に進んでいる。さらに、パンデミック下において生じた新たなサプライチェーンリスクや供給の途絶、企業間の影響関係の変動について分析するため、直近の取引関係データを含む、分析対象期間とデータの拡張について検討した。データホルダーとの調整を行い、新たな体制で契約を結び直すとともに、サーバ上の分析環境をはじめとする次年度以降の研究体制の整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、ネットワークの構造特性を捉える提案指標PWの企業間ネットワークへの適用およびクラスター進化への影響の分析結果に関して、2022年8月に米国で開催された技術経営分野の国際学会に現地参加し研究成果を発表した。報告内容はプロシーディングスとして公開されている。同学会では発表を聞いた参加者から招待講演の依頼もあり、研究成果に関するより詳しい内容を別途発表する機会を得るなど、一定の反響が得られている。学会での議論とフィードバックを踏まえ、提案指標に基づくさらなる検証を行い、ジャーナルへの投稿を行った。査読結果を踏まえて論文をリバイスし、論文全体の構成を明示した図表や最新の関連論文を追加するとともに、統計的検証手法や比較手法に関する詳細な説明を加える等の修正を加えて再投稿している。 また、複雑ネットワーク分析に関する知見を深めるため、人工知能学会誌において特集号を企画し、本研究に関連する企業ネットワークの動的なメゾスコピック構造に関する論考を自ら投稿するとともに、関連分野の最先端で活躍する研究者の方々より10本の論文を提供いただいた。異種データ接続による実体経済を踏まえた多面的分析(サプライチェーン、株所有、土地所有、送金、企業活動基本調査、全産業活動指数)や、間接的なリンクや高次のつながりの影響、ネットワーク内のメゾスコピック構造やパターンの検出、ネットワーク上の流れや構造変化の動態分析等について有益な知見が得られている。 本研究成果をまとめた書籍は東大出版会からの出版が確定した。日本学術振興会の研究成果公開促進費の助成も得られており、出版に向けて着実に準備が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
書籍化に関しては出版社からの助言も踏まえ、ネットワーク経済学等の関連分野の最新の研究動向をさらに調査するとともに、本研究の位置付けを明確にする。本文中で用いられる用語の定義について精査を行い、全体を通した構成についても読者に読みやすい順番となるよう見直す予定である。 提案指標PWを用いたクラスター進化の分析については、検出されたブローカー企業の特徴、クラスター規模、ネットワーク構造、地域や産業の多様性に基づく分析成果をまとめるとともに、さらなる先行研究調査を行って論文構成を検討し、ジャーナルへの投稿を行う。 企業間取引データについては、これまでは2016年までの10年間分のデータを用いていたが、近年のパンデミック下におけるサプライチェーン変動についても分析が行えるようデータ提供元との調整を行った。次年度からは2022年までの最新データを含む分析が行えるよう、サーバ上の環境および研究体制の整備が整っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は国際学会への参加費や渡航費は他の研究予算で支出したため、予算は研究に必要な書籍やセミナー参加費等での使用に留まっており、予算の大半は次年度に繰り越すこととしている。令和5年度は最終年であるため、学会への参加費や渡航費、ジャーナル投稿費等、これまでの研究成果の発表に集中して予算を使用する計画である。
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