本研究の主な目的は、戦前から現在までの酒造労働における熟練形成のプロセスと熟練形成に寄与する要因を分析し、その歴史的な変容過程と展望を明らかにすることにある。より具体的には、日本最大の酒造労働集団である南部杜氏協会を対象として、会員への聞き取り調査を実施するとともに、協会会員名簿や全国新酒鑑評会入賞記録を基に要因を特定することを主たる目的として調査研究を実施するものである。 令和4年度は主に以下の二点についての研究を実施した。第一に、これまで蓄積・整理した約60年分のデータ(杜氏の勤務先の変化や受賞記録・杜氏に至るまでの役職の変化や勤務先などの経験・同じ蔵で働いた同僚や部下との経験年数)を基に分析を行い、どのような出稼ぎ集団が高い成果(鑑評会金賞受賞)を挙げてきたか、その分析結果を論文として投稿した。現在査読中であり、令和5年度中の掲載を予定している。第二に、これまでの研究を踏まえ、今後の研究の展望として清酒製造企業の新事業展開および人材育成の実態調査を実施した。特に清酒製造から多角化しクラフトビールなどの他のアルコール事業を展開している企業を分析対象とし、聞き取り調査を複数回実施するとともに、これらに関する資料収集を行った。産業の成熟化が進む中で中小規模の酒造が直面していた状況とそれに対する個別企業の取り組み、および新規事業が持つ意義を明らかにすべく、同時期に参入した競合他社の行動と比較しながら調査を実施した。この研究の成果はケース論文として作成し、現在投稿中である。また併せて令和5年の国内学会での報告を予定している。
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