研究課題/領域番号 |
19K01903
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
辻田 素子 龍谷大学, 経済学部, 教授 (40350920)
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研究分担者 |
伊達 浩憲 龍谷大学, 経済学部, 教授 (30278501)
松岡 憲司 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (40141668) [辞退]
神吉 正三 龍谷大学, 法学部, 教授 (50337284)
白須 正 龍谷大学, 政策学部, 教授 (60780088)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 長寿企業 / ファミリービジネス / 革新活動 / 地域社会 / コミュニティ / 老舗 |
研究実績の概要 |
本研究は、長寿ファミリー企業(以下、長寿FBと称す)における企業家活動のダイナミズムをテーマとし、長寿FBの企業家活動の実態や企業家的志向性に影響を与える要因を分析課題としている。 地域間比較は本研究の主題の一つであるが、コロナ禍のため当初予定を変更し、京都市の革新的な長寿FBの研究とその成果発表を先行させた。具体的には、京都市が革新的な企業としてその活動を支援する「オスカー認定」9社を対象に、経営者やその関係者らへの丹念な聞き取りを実施するとともに、先行研究、雑誌記事、統計データなども駆使し、企業家活動の実態とそうした活動を促進する諸要因を分析した。 さらに、一橋大学大学院経済学研究科帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)が有する大量の企業データを利用して、オスカー認定の長寿企業と非長寿企業、京都の長寿FBと非長寿FBの間でどのような違いが認められるかについて、量的分析を進めた。 2022年度は、各自が担当するテーマや企業に関する原稿執筆に注力し、その成果として、2023年2月に『長寿ファミリー企業のアントレプレナーシップと地域社会―時代を超える京都ブランド』(新評論)を上梓した。同書では、京都の地で同族経営の強みをいかんなく発揮し「襷」をつないできた企業が、創業以来どのような企業家活動をとってきたのか、未知への挑戦を重ねる気骨は世代を超えて継承されるのか、京都という地がその興亡にどのような影響を及ぼしているのかなどを検証している。 革新的な京都の長寿FBには、ファミリーで事業を継承していきたいという「社会情緒資産」維持への強い思いがあり幼少期から長期的な視点で後継者を育んできていること、企業家活動にあたり京都の地域資源が活用されていることなどを指摘し、京都の長寿FBが地域社会に深く埋め込まれている側面を浮き彫りにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、延期を余儀なくされた研究は、大阪、東京といった他地域の長寿FBの実態把握である。緊急事態宣言の発出などにより都道府県を超えたフィールド調査の実施が困難だった時期に、京都の長寿FB研究を先行させる決断を行った。 したがって、京都の長寿FB研究は当初想定以上に進展し、2023年2月にその成果を上述の書籍にまとめることができた。 以上から、2019年春策定の当初案通りではないが、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
京都の革新的な長寿FBに関する研究は一定の進展が認められたことから、今後は、以下の取り組みを本格化する。
1.100年、200年の歴史を有する長寿FBといえども、倒産や廃業にいたる企業も少なくない。京都府が1967年から顕彰してきた「老舗」(創業100年を超える企業を「京の老舗」として表彰)が2021年度に2,000社を超えたが、その約3分の1は消滅したとみられる。消えた長寿企業と残った長寿企業は何が違ったのかは、これまであまり議論されてこなかったが、極めて重要な問題である。府も「京の老舗」表彰企業の動向(存続、廃業、倒産等)に強い関心を持っていることから、府の協力を得て、長寿企業の中で、どのようなタイプの企業が市場から退出しているのか、要因は何か、FBは長寿性にどのような形でプラスあるいはマイナスの機能を果たしているのかなどを分析する。存続企業と退出企業を比較分析することで、FBの強みや弱みをより詳細に議論できる可能性がある。帝国データバンクの倒産企業データを活用するとともに、退出企業を対象に関係者への聞き取り調査を実施する。
2.老舗FBの地域特性の分析を始める。京都と東京、大阪などで地域差があるのか、あるとすれば、なぜそうした差が生じているのかを、産業の中分類や小分類、主業と従業が入れ替わったかどうかなどのパネルデータで解析する。帝国データバンクの企業データを活用すると同時に、現地調査も実施する。現時点では、大阪の長寿FBと京都の長寿FBの比較を想定している。京都大学経営管理大学院・(特)アントレプレナーシップ開発センター・大阪商工会議所[2011]が大阪と京都の長寿企業を対象にしたアンケート調査によると、京都の経営者は、京都という地域で創業したがゆえに商売が成功したと考える傾向が顕著であった。その要因を分析できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究計画を見直し、他地域へのフィールド調査を延期して地元京都の企業研究を先行させた。また、本研究で中心的役割を担っていたメンバーが2022年夏に逝去した。これらの理由により、次年度への繰り越しが発生した。 コロナ禍による制約がなくなったことから、2023年度は他地域企業の調査を実施する。繰り越し金額はこの費用に充てる。
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