研究課題/領域番号 |
19K01923
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
永山 晋 法政大学, 経営学部, 准教授 (10639313)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 創造性 / イノベーション / 非顕在データ / 日常行動 / ネットワーキング / 眼球運動 / フロー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、創造的成果創出の予兆となる日常行動を明らかにすることである。詳しくは後述するが、2019年度、私は本来計画していた主軸となる研究内容を変更せざるをえない事態に直面した。主な原因は、日本企業による個人情報の無許可データ利用と新型コロナウイルスである。このような状況下で私が実施した研究は主に2つある。 一つは、株式会社ジンズと共同で行った研究である。本研究はどのような目の動きが、創造性の最も発揮されるフローと関係するのかを明らかにした。メガネタイプのウェアラブルデバイス(J!NS MEME)から眼球の動きを抽出するとともに、新たに開発した専用アプリをインストールしたスマートフォンから被験者に1時間ごとにアンケートを収集した(Experience Sampling Method)。被験者には事前にデータの利用について同意をとっている。固定効果モデルによる分析の結果、フロー状態では眼球の左右の動きが低下する結果が得られた。本研究は、2020年1月に早稲田大学で開催された国際学会NetSci-Xにてポスター発表された。 もう一つは、Sansan株式会社と共同で行った研究である。高ステータスのビジネスパーソンとネットワークを形成後、その人物の知人とさらに連結する連鎖的なネットワーク形成現象を「マジカル・エンカウンター」と呼び、これがいかなる要因によって引き起こされるかを明らかにした。マジカル・エンカウンターは本人のステータスも大幅に向上させるため、革新的成果創出に向けた資源動員が行いやすくなると考えられる。分析の結果、マジカル・エンカウンターは、多様な人物へとつながりやすい異質なネットワーク構造を事前にもつとともに特定職種を特化する(転職しない)ことで引き起こされやすくなることが明らかとなった。本研究も先の研究同様にNetSci-Xにてポスター発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、創造的成果創出の予兆となる日常行動を明らかにするため、情報伝達と価値観の伝染の起点となる人々のネットワーキング行動に着目していた。このネットワーキング行動を捉えるうえで、企業で働く社員の日々のミーティング行動をデータとして収集することを計画していた。しかし、2019年度、私は本来計画していた主軸となる研究内容を変更せざるをえない事態に直面した。それは、先述した日本企業による無許可データ利用の余波と新型コロナウイルスの蔓延である。 本研究を実施するにあたり、研究協力企業から社内のミーティングデータを提供してもらう予定であった。しかし、先述の問題を受けて、協力企業側から既存社員のデータの研究利用について再検討する運びとなった。この決定を受け、私は研究目的を達成するための代替的計画を新たに考案した。新たな調査は2020年4月から実施する予定だったが、このタイミングで新型コロナウイルスが発生してしまった。これにより、代替的計画も当面の間実施が不可能となった。以上2つの要因によって研究の進捗が遅れる運びとなった。 一方で、まだ学会発表水準であるものの先述した2つの研究については調査を実施し、分析結果を得ることができた。これらは科研申請時に計画されていなかったものである。 以上を総合し、研究進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた主軸研究の大幅変更に加え、先述したフローを予兆する眼球運動に関する研究、ネットワーキングとしてのマジカル・エンカウンター研究の合計3つの研究についてそれぞれ推進方法を説明する。 まず、主軸の研究については、現状では全てがリモート・ワークになっているため、予定通りに進捗するかは不透明だが、2020年度中に調査を再起動する予定である。現在、研究協力企業と今後の取り組みについて協議を重ねている段階だ。推進方法は以下である。まず、調査対象は新人の研修を対象とする。各社員はゼロから社内のネットワークを構築するため、ネットワーキングの効果を検出しやすい。さらに、日々の研修の振り返りが研修に組み込まれているため、アンケートであっても日常行動に関わるデータを取得しやすい。本研究については仮に2020年度中に調査が実施できれば2020年終盤に学会発表に向けた準備を行いたい。 次に、株式会社JINSと共同で行っているフローを予測する眼球運動研究については、さらに追加的実験を行う予定であったが、新型コロナウイルスにより、対面実験が不能になってしまった。そのため、当面の間推進することが困難である。現在、リモートで実験を行う方法を模索している段階である。 最後に、Sansan株式会社と共同で行っているマジカル・エンカウンター研究については、追加のデータセットを収集し、既に検証した仮説モデルの検証を行う予定である。データセットの候補としては、映画制作者、音楽制作者、研究者などを検討している。データセットをウェブを通じて収集する予定である。分析結果が得られた段階で論文を執筆し学会誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主軸研究に大幅な変更が生じた一方で、新たに2つの関連研究を開始した。さらに、2020年度に予定していた米国学会が新型コロナウイルスのため、オンライン開催となった。これらの要因を反映し、2020年度の使用計画を一部変更する。 主な変更点は人件費の追加と自宅研究環境構築に関わる物品費の追加である。人件費については、データセット構築のために用いる。ウェブからデータを収集するうえで必要なスクレイピングのプログラムコード作成、マニュアルでのデータ収集、入力、内容の確認に関わる人件費として利用する予定である。2020年度はもともと米国出張に向けて40万円を予算として計上していたが、その削減額を追加的な人件費にあてがう。 さらに、新型コロナウイルスによって自宅での研究活動が必須となった。この事態がしばらく収束しないことを前提に、自宅の研究環境、ならびにリモートで共同研究者とのやりとりを円滑にする環境を構築する必要がある。そのため、PC購入費用として30万円を利用する予定である。
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