研究課題/領域番号 |
19K01927
|
研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
金綱 基志 南山大学, 総合政策学部, 教授 (50298064)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 知識共有 / 製品開発 / 企業間関係 / 自動車産業 / 造船産業 |
研究実績の概要 |
2020年度は、2019年度に続いて科学技術論文のデータベースであるINSPECを利用したデータ収集を行った。2019年度に収集したトヨタ自動車における研究開発段階での国際的な共同研究の実態と比較するため、2020年度はアメリカを代表する自動車メーカーであるゼネラルモーターズにおける国際的な共同研究に関するデータを収集した。INSPECのデータベースは、国際的な科学技術論文に掲載された著者名とその所属先が記載されているため、国際的な共同研究の実態を把握する上で有用なデータベースである。データの数は膨大なものとなっているが、この2社の研究開発段階における国際的な共同研究の実態を把握することで、海外のパートナーとの共同研究の進展度合いが、日本の多国籍企業と海外の多国籍企業で異なるかどうかを明らかにすることができる。また、この研究によって、製品の開発段階において、国内で強固な紐帯を作り上げてきた日本企業が、海外のパートナーとの間にも知識共有を伴う緊密な協力関係を形成することができるのかも明確にすることができる。 さらに、2020年度は、造船産業において舶用工業メーカーが、製品開発段階で国内のパートナーと海外のパートナーとどの程度、知識共有を伴う協力関係を形成しているのかについての調査をまとめた。この論文は、Springer社より出版されたManagement for Sustainable and Inclusive Development in a Transforming Asiaに掲載された。この論文は、造船産業において、舶用工業メーカーが国内のパートナーと知識共有を伴う協力関係を形成してきていること、また一部であるが海外のパートナーとも協力関係を進めてきていることを明らかにしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで自動車産業における企業間の共同研究に関するデータをINSPECを利用して収集してきた。このデータを分析することで、日本の多国籍企業とアメリカの多国籍企業における企業間の共同研究の進展度合いを比較することできる。また、2020年度は、日本の造船産業における研究開発段階での企業間の協力関係の進展に関する調査結果をまとめ論文として出版した。論文のタイトルは、R&D and Inter-firm Knowledge Flow in Japan’s Shipbuilding Industry: Comparative Analysis of Factors that Promote Knowledge Flow Between Domestic and Overseas Partnersである。 この研究における重要な発見は、日本の舶用工業メーカーが国内のパートナーと知識共有を伴う協力関係を形成してきているだけではなく、一部であるが海外のパートナーとも協力関係を進めてきていること、そして国内のパートナーと協力関係を形成している企業は、海外のパートナーとも協力関係を形成する傾向にあることを明らかにした点にある。 製品を開発する際に、国内の企業間で知識を共有しながら新製品の機能や品質の向上させることが、日本企業の強みの一つであると考えられてきた。一方で、こうした強い紐帯は、外部の知識へのアクセスを妨げる要因になることが指摘されてきた。この調査結果は、製品の開発段階において、国内において強固な紐帯を作り上げている企業が、海外のパートナーとの間にも知識共有を伴う緊密な協力関係を形成することができる可能性を示すものである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、研究対象とする産業を、電機・電子産業にも拡げて、研究開発段階におけるパートナーとの協力関係の形成度合いが産業間で異なるのかどうかも検証していく予定である。調査は、これまでと同様に、INSPECを利用した科学技術論文における共著者のデータを利用していく。また、今後は海外のパートナーとの関係性構築のスピードについても比較していく。このスピードは、科学技術論文の共著で表される共同研究の時系列的な変化をみることで明らかにしていきたいと考えている。 海外のパートナーと知識共有を含む関係性を拡大していく場合、国内で強固な紐帯が形成されているケースとそうでないケースで海外のパートナーへの関係性拡大のスピードは異なるのであろうか。国内で強固な紐帯があるケースで、海外のパートナーとの関係性拡大のスピードが遅いということであれば、強固な紐帯のデメリットとして、関係性拡大のスピードを加えることが必要となってくる。今後は、こうした国内の紐帯の質が、海外のパートナーとの関係性拡大のスピードに影響を与えるかどうかを、自動車産業、電機・電子産業、造船産業を比較しながら明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、予定していた学会への参加がすべてオンライン開催となったため、旅費の支払いを行う必要がなかった。ただし、オンライン開催であっても必要な情報は収集できている。今後は、使用しなかった旅費については、本研究で重要となるINSPECを利用したデータ収集に利用していく予定である。このデータベースの利用料金は高額なため、未利用分の予算を利用することでさらなる研究の進展を図ることができる。また、データの分析においては、サポートを行う研究者への謝金として利用することも考えている。このように研究を遂行することで、本研究で交付された助成金は研究の目的を達成するために有効に利用できると考えている。
|