研究課題/領域番号 |
19K01927
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
金綱 基志 南山大学, 総合政策学部, 教授 (50298064)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 研究開発 / R&Dネットワーク / 埋め込み / LoO / トヨタ自動車 |
研究実績の概要 |
企業が国際化する際には、海外企業であることの不利さ(liability of foreignness:LoF)を克服することが必要であり、このことが多国籍企業による企業特殊的優位性の保持の必要性を説明する理由とされてきた(Hymer,1960)。これに対して、企業が国際化を進める際の課題は、LoFよりも現地のネットワークの外部にいることの不利さ(liability of outsidership:LoO)の克服と、現地におけるインサイダーシップ(insidership)の獲得であるとする議論が行われるようになってきている(Johanson and Vahne,2009)。 LoOを克服し、現地のネットワークにおけるインサイダーとなることは、国内で形成したネットワークが、海外にも拡大するということを意味している。一方で、すでに存在するネットワーク内の関係性における埋め込みのレベルが過度に高い場合に、新たなパートナーとの関係性構築が困難になるという指摘もされてきた(Gargiulo and Benassi,2000)。 国内のネットワークにおける埋め込みのレベルが過度に高い場合に新たな海外のパートナーとの関係性構築が困難になるとすれば、国内において強固なネットワークのインサイダーであることのメリットを享受してきた企業は、海外で新たなパートナーと社会的関係性を構築することができず、現地でネットワークのインサイダーとなることのメリットを享受することも難しいということになるのだろうか。本研究では、国内でのネットワークの埋め込みレベルが高いケースで、LoOの克服と進出先国におけるインサイダーシップの獲得が可能になるのかという点を、トヨタ自動車の研究開発ステージにおける国内R&D拠点の海外への対外的ネットワークの拡大と海外R&D拠点の対外的ネットワークの拡大を見ることで検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、国内でのネットワークの埋め込みレベルが高いケースで、LoOの克服と進出先国におけるインサイダーシップの獲得が可能になるのかという点を、トヨタ自動車の研究開発ステージにおける国内R&D拠点の海外への対外的ネットワークの拡大と海外R&D拠点の対外的ネットワークの拡大を見ることで検証した。データとして利用したのは、科学技術論文誌のデータベースであるINSPECに掲載された論文で、著者の所属先(Author Affiliation)にToyotaが含まれている学術論文(Scholarly Journals)のうち1998年、2003年、2008年、2013年、2018年、2021年のデータである。 本研究では、トヨタのR&Dネットワークの拡がりを、林・中山・菰田(2021)による集中性と分散性という指標を用いて分析した。その結果、トヨタの本国R&D拠点中心の研究開発ネットワークが、組織間、国際間で拡がりつつも、海外R&D拠点を含めたトヨタ全体の研究開発体制におけるその位置は次第に低下してきていること、また、トヨタの研究開発ネットワークにおける海外R&D拠点が、その海外R&D拠点の立地する国の研究所等にとどまらず、海外R&D拠点の立地する国を超えた研究所等と共同研究を増加させながら、トヨタの研究開発体制全体におけるその位置を次第に向上させてきていることが明らかとなった。こうした検証がなされた一方で、予定していたゼネラルモーターズ、現代自動車など他の多国籍企業の分析が遅れているため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
トヨタ自動車は、国内において高いレベルの埋め込みと捉えられるネットワーク形成しながら研究開発を行ってきた。しかし、本研究で明らかとなったように、トヨタの国内のR&D拠点に所属する研究者による科学技術論文の共同研究は、トヨタの国内R&D拠点内からトヨタの国内R&D拠点と国内の研究所等との共同研究を中心に、海外の研究所等にも拡がってきている。このことは、埋め込みレベルの高いネットワークで生じるとされる外部との新たな関係性構築に関する課題は、必ずしも固定的なものではないことを示していると考えられる。 一方で、トヨタの研究開発ネットワークを海外R&D拠点を中心として見た場合には、そのネットワークが、海外R&D拠点が立地する国の研究所等との共同研究のみではなく、海外R&D拠点が立地する国を超えたものに拡がってきている。また、分散性の推移が示すように、トヨタの海外R&D拠点は、トヨタの研究開発全体に占める位置を次第に向上させてきている。 今後は、こうしたトヨタ自動車において確認されたことが、他企業でも見られるのかという点を、これまでINSPECで入手したデータを基に検証していく。分析としていくのは、自動車産業においては、ゼネラルモーターズ、現代自動車、電機・電子産業においては、ソニー、サムスン電子、TSMCである。これらの企業における国内R&D拠点の研究開発ネットワークの拡がりと、海外R&D拠点の研究開発ネットワークの拡がりを比較することで、国内での研究開発ネットワークが海外での研究開発ネットワークへの拡がりに与える影響について、企業間のみでなく産業間での比較を加えて分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの感染拡大への対応のため、学内業務が激増し研究時間の確保が困難であったことが理由である。一方で、本研究の分析で必要となるINSPECのデータは、研究対象としているゼネラルモーターズ、現代自動車、ソニー、サムスン電子、TSMCの入手が進んている。次年度使用額は、さらに研究対象を拡げるためのデータベースの利用代金に充てる予定である。
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