研究実績の概要 |
研究開発活動をグローバルに行うことは、海外で企業特殊的優位性を獲得する上で重要な役割を果たしている。ここで問題となるのが、海外へのR&Dネットワークの拡大に、多国籍企業の本国内R&Dネットワークの在り方が影響を与えるのかという点である。これまで埋め込み理論において、既存のネットワークにおける埋め込みレベルが過度に高い場合には、ネットワーク外部と新たな関係性を構築することが難しくなること、そのためネットワーク内部のアクター間で共有される知識が同質化するデメリットが生じるとの指摘がされてきた(Portes and Sensenbrenner,1993; Gargiulo and Benassi,2000)。そうだとすれば、国内での高いレベルの埋め込みで特徴づけられるネットワークを築いてきた多国籍企業は、いかなる状況の変化の下でもネットワーク外部との新たな関係性を構築することが難しいということになるのだろうか。 本研究では、多国籍企業の国内R&Dネットワークにおける高いレベルの埋め込みが、新たなR&Dネットワークの拡大であるR&Dネットワークのグローバル化の障害となるのかという点について、国内においてパートナーと強固な関係性を築きながらR&D活動を行ってきたトヨタ自動車と、米国ゼネラルモーターズ、韓国現代自動車を比較しながら検証を試みた。 その結果、日本の多国籍企業においても、科学技術論文誌に掲載される基礎研究レベルにおいては、そのR&Dネットワークが本国R&D拠点において立地外に拡大し、海外R&D拠点においても立地内・立地外に拡大していることがトヨタ自動車のケースで確認された。このことは、新たなR&Dネットワークをグローバルに拡大していくために、国内での企業間の高いレベルの埋め込みの下でのネットワークが障害となるとする見解に疑問を投げかけるものとなっている。
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