本研究では,オープン・イノベーションにおけるインバウンド型とアウトバウンド型という活動類型の有無が,企業の収益にどのような影響を与えるかを調査した.企業のオープン・イノベーション活動を把握するデータとして,文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が実施した「民間企業の研究活動に関する調査」アンケートの2008年から2018年の回答を用いた. 分析の結果,インバウンド型オープン・イノベーションは企業の収益に対して有意にプラスの影響を示したが,アウトバウンド型オープン・イノベーションは企業の収益には有意な影響を与えていないことが示された.これは外部の技術を積極的に取り込んで開発を実施するインセンティブが企業にあるのに対して,自社技術を積極的に外部に提供するインセンティブが無い,もしくは非常に弱いことを示唆している. すなわち,オープン・イノベーション活動を通じた生産性向上の課題として,企業が死蔵している技術情報の公開促進などの政策課題が有り得ることが示唆される.オープン・イノベーションのスキームが経済全体として一層機能するためには,技術情報の流通が円滑に行われ,需給がバランスする必要がある.そのためにはアウトバウンド側からの技術情報の提供が重要と考えられるが,本研究からは,特許制度による強制的な情報公開を除くとアウトバウンド側の自社技術公開 のインセンティブが乏しい実態を示唆している. NISTEPのアンケート結果で示されている,インバウンド活動を行っている企業が全体の約6割にのぼるのに対してアウトバウンド活動を行っている企業の比率が3割半ば程度にとどまっている理由としては,本研究で示唆された,アウトバウンド側のインセンティブの低さがその一因ではないかと考えられる.
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