研究課題/領域番号 |
19K01935
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂川 裕司 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (40301965)
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研究分担者 |
森村 文一 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80582527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Market Orientation / CRM / SCM / Retailing / Marketing Capabilities |
研究実績の概要 |
当初の予定にしたがって,2019年度は2021年度に実施予定の第一回質問票調査に向けて,研究に関連する各種資料の収集,整理,検討を行ってきた。新聞雑誌に掲載された記事,放映された報道番組などをはじめとする二次資料を中心として,小売企業の「市場編集能力」に関わると考えられる情報を探索し,この後に実施される質問票調査に向けた概念の構築,尺度の開発に必要なデータベースを作成することに注力した。データベースは新聞雑誌記事の検索結果をテキスト,ワード,PDFの形式で保存し,キーワード検索により対象記事を検索できるように作成した。今後はテキスト分析を行うことも視野に入れ,データベースの修正も視野に入れ作業を進めている。これに平行して,先行研究のレビューにも取り組んだ。先行研究のレビューを通じて,本研究課題にとって重要な概念,仮説,分析枠組み,研究方法を把握し,翌年度以降の研究作業に備えることにした。先行研究のレビューのなかで,企業にとって市場を編集するという行為は,マーケティングにおいて市場細分化と,これに関連する研究が取り上げていることを把握した。とくに市場志向研究では,先行的な市場志向概念に関連する諸研究が,「市場編集」に類似する企業行動に分析の焦点を当てていることが理解できた。また過去に実施した質問票調査を見直し,本研究に関連する尺度を整理し,本研究の関心に基づいたデータの解析を行ってみた。その結果,いくつかの興味深い概念間の関係を発見することができた。この結果の一部については,12月に開催された国際学会において報告することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にしたがって,作業を進めることができている。二次資料を中心とした情報の収集と分析作業を行うことにより,「市場編集」という国内小売企業の動向を理解することができた。とくにPB商品開発能力の違いは,市場を編集する側面での小売企業間の差違を大きくすると理解できた。PB商品開発能力の小売企業は,顧客の生活スタイルに変化を生み出すようなPB商品を開発し品揃えに加えることによって,既存の市場を編集し,自社にとって有利な「競争の場」としての市場を作り出していることを理解した。またこのような事例とは異なり,ある小売企業は商品の取り扱い技術という側面において,既存業態の制約を克服し,業態の境界を越えるような品揃えの拡張を行うことにより,既存業態のままで既存の市場を編集し,自社にとって有利な「競争の場」としての市場を作り出していることを理解した。さらに当初の計画にはなかったが,本研究の視点から過去の質問票調査のデータを再分析した結果,小売業の市場編集能力は市場志向の影響を受ける可能性に気づくことができた。以上の経過を振り返り,現在までの進捗状況は「おおむね順調」であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画によると,今後の研究は,次のように推進することになる。2020年度は前年度までの研究作業の進捗状況を前提として,データベース構築を通じて把握された事例を踏まえつつ,先行研究のレビューから得た知見を利用し,本研究における仮説,分析枠組みを構築する。とくに小売業の「市場編集能力」をどのように測定するのか,という点が,2020年度の中核課題となると考えている。マーケティングの視点から「市場を編集する」という企業行動は,市場細分化と深く関連する。さらに市場を編集するためには,消費者の行動を変化させる働きかけとしてのマーケティング行為が伴わなければならない。このマーケティング行為は,小売業において店舗やウェブなどのポイントを通じた顧客とのコミュニケーション活動として捉えることができるだろう。今後,この理解に基づいて,「市場編集能力」の概念化と測定尺度を検討する。このような研究作業の過程を通じて,2021年度に実施する第一回質問票調査における質問項目として使用する概念,尺度を絞り込む予定である。小売企業における市場編集能力,市場志向,顧客関係マネジメント,サプライヤー関係マネジメント,そして成果に関して,異なる定義の概念,尺度が存在する。これらの中から本研究の課題に最も適切な概念,尺度を選出し,質問票調査の設計を行う準備を整えることになるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際学会について参加を見送ったこと,並びに新コロナウィルスの影響により他大学研究者との研究打合せの出張が取りやめになったことが,次年度使用額発生の理由である。なお2020年度においても,国内外の出張は極めて困難であると考えられる。そこで現時点,ウェブミーティングの機材購入,サービス利用に利用する予定である。
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