研究課題/領域番号 |
19K01940
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
寺田 英子 広島市立大学, 国際学部, 教授 (90316133)
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研究分担者 |
川崎 智也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (30705702)
根本 敏則 敬愛大学, 経済学部, 教授 (90156167)
手塚 広一郎 日本大学, 経済学部, 教授 (90323914)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ロジスティクス / 港湾 / サプライチェーン / 国際物流 / サプライチェーン・マネジメント / 港湾管理 / 日本型官民パートナーシップ / PPP |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本、中国、ASEANの輸出入拠点となる港湾と国際物流サービスの高度化について、社会科学的なロジスティクスのアプローチに軸足を置いた上で、日本の港湾が利用者から選ばれる国際的なロジスティクス・センターとなるための条件を示すことである。 本研究では、グローバル展開するサプライチェーン・マネジメント(以下SCM)と日本の拠点港湾を結節点としたロジスティクスの関係について、3つの問いを立てた。① SCM分析:利用者から選ばれる港湾となるための要因分析;日本の港湾では、貨物に付加価値を付ける結節点としての役割が重視される。本研究では、コンテナ取扱量増減のメカニズムを特定する目的で、輸出先の経済指標との関係をベクトル誤差修正モデルで分析した。有意な経済指標は航路別に異なり、その持続性も異なった。 ② 日本型官民パートナーシップ(Public-Private Partnerships: PPP)とそれがSCMに与える影響の分析;物流サービスの高度化という視点にたち、港湾運営に民間資本が入ることにより荷主や船会社の輸送がどのように変化する可能性があるのか、SCMや貨物利用運送業にどのような影響を与えるのかという問題について、港湾管理者へのインタビュー調査をもとに仮説をつくる準備を行っている。20年度初頭からの新型コロナ感染拡大により、国内・国外でのインタビュー調査を断念した。③ 港湾マネジメントの担い手に関する分析;荷主のサプライチェーンの最適化が進むなかで、港湾を高速道路ネットワークに接続させるための道路整備や、臨港地区に流通加工センター等を整備する傾向がみられる。このような土地利用の変化について、港湾管理者にインタビュー調査を行う予定だったが、感染状況から断念した。代わりに、コロナ禍という経済環境の大きな変化のもとでの物流サービスの変化に関する文献調査を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
① SCM分析:利用者から選ばれる港湾となるための要因分析 コンテナ取扱量増減のメカニズムを特定する目的で、輸出先の経済指標との関係をベクトル誤差修正モデルで分析した。有意な経済指標は航路別に異なり、持続性も異なった。また、荷主と船会社のBi-level問題として最適化問題を解くと、荷主の港湾選択においてはガントリークレーンの設置が大きく影響することを特定した。② 日本型官民パートナーシップとそれがSCMに与える影響の分析;20年度はコンテナ港湾の港湾間競争と協調行動の研究を行なった。これは、中国の上海港などを事例として、ゲーム理論を用いてコンテナ港湾による貨物獲得競争を分析したものである。また、アメリカ合衆国のシアトル港の港湾統合に関して、港湾の統合が実際のスケールメリットを享受し得るものかどうかを検証し、論文として発表した。③ 港湾マネジメントの担い手に関する分析;日本が提案国となって策定した小口保冷配送サービスの国際標準(ISO23412)を紹介し、近い将来にISO化を目指す日本ASEANコールドチェーンロジスティクス・ガイドラインの策定意義について論じた。また、政府開発援助の一環として日本の通関システムであるNACCSがミャンマーに供与され、近年タイ国境にあるミャワディ税関にもNACCSが配備されている。20年度に現地を調査し、貿易物流の課題を明らかにした。日本の拠点港湾を管理する自治体は、都市部の臨港地区に大規模な流通加工センターや倉庫等を整備する傾向がある。このような土地利用の変化についてインタビュー調査を行う予定であったが、感染拡大のため実施を断念した。代わりに、日本での自動車運送事業の運転時間規制見直しの動向を踏まえ、安全規制の運用(特に運行管理者制度)について文献調査を行ない、近年の英国における運転時間と車両保守に関する文献調査を整理し報告書として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
①SCM分析:利用者から選ばれる港湾となるための要因分析;20年度までに実施した研究内容を踏まえ、港湾のサービスレベル等が変化したときに背後圏がどの程度拡大したかを視覚化する。20年度末の新型コロナ感染拡大により、中国地方の港湾管理者へのインタビュー調査が一部しか実施できなかったので、21年度は港湾ビジネスの実務者との議論を加え、政策提言に活用できるようなシナリオ分析を追加で実施する。 ②日本型官民パートナーシップとそれがSCMに与える影響の分析;20年度に検討した港湾間競争のモデルについて、上海海事大学の研究者とともに上海港に関する事例を集め、これをモデルに適用する作業を進める。21年度は港湾や空港の事例に当てはめてモデル構築を進め、これらの成果を学会などで順次公表する。海外学会の報告については、オンラインを通して積極的に行う。 ③港湾マネジメントの担い手に関する分析;21年5月現在で新型コロナウィルスの緊急事態宣言区域が急増し、研究代表者と研究分担者の活動拠点も同区域に指定された。海外・国内出張ができないので、拠点港湾の管理者へのインタビュー調査は見通しが立たない。今後の感染状況によっては、国内調査が実施できるようになるかもしれないので学術文献による調査を続ける。 21年度にフィリピンでの学会発表に合わせて現地調査を実施する予定であったが、WEB開催となったため、現地調査の計画が立てられない。ASEAN内のコールドチェーン・ロジスティクスの現状と課題については、20年度に引き続き調査を継続していく。 パンデミックのもとでのサプライチェーン・マネジメントの変容、すなわち、本研究の文脈では中国やASEAN諸国においた生産拠点をより本国に近い場所、または、本国に移すという可能性について文献調査と情報整理を行い、今後の日本国内の物流拠点整備や物流事業者に与える影響について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が19年度と20年度に予定していた国内の港湾管理者へのインタビュー調査は、21年度中に新型コロナウィルス感染拡大が終息し、県外への移動制限対象が解除されれば、① 岡山県岡山港、② 愛知県名古屋港、③ 宮城県仙台港の3か所の国際コンテナターミナル運営について、港湾管理者等へのインタビュー調査を行ないたい。一方、20年度に予定していたベトナムでの日系自動車メーカーへのインタビュー調査は、断念せざるを得なかった。感染拡大が20年度に比べ悪化している現況からみて、21年度中の海外調査も困難と考えている。そのため、国内外の文献調査により、企業のロジスティクス・コスト削減と顧客満足の視点にたつ拠点港湾について分析を行なう。 研究分担者(川崎)は、21年度末に港湾管理者(鳥取県、島根県、広島県)への現地インタビュー調査を行う予定であったが、新コロナウィルス感染拡大のため、直前にインタビュー先からキャンセルの申し入れがあった。また、他の研究分担者(手塚)が20年度に予定していた国際学会がオンライン開催に切り替えられたため、未使用額を21年度に繰り越すこととした。また、20年度に発刊が予定されていた学術図書が延期、または、キャンセルとなったので、21年度に購入図書を見直しつつ、国内外の文献による情報収集を行なう。
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