研究課題/領域番号 |
19K01958
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山下 裕子 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (90230432)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 真珠 / 複雑な品質 / 想像された未来 / 種のサステナビリティ / Actor Network Theory / 病原体 / ラグジュアリー製品とサステナビリティ / Michel Callon |
研究実績の概要 |
【A 日本における養殖真珠の品質の形成】を丹念に追う。具体的には、①1999年の真珠養殖事業法撤廃に至るまでのプロセス、②民間の鑑別機関による鑑別書のインパクト、③大型の 8ミリ玉への生産の集中化と品質劣化・大型貝の利用による環境劣化、④真珠振興法制定(2015年)に至るプロセス、⑤真珠振興法に依拠する品質基準制定の可能性について焦点を当てる。現地に赴く聞き取り調査の実施を計画していたが、コロナ下での移動制限のため方針転換を行い、ドキュメントを中心とした内容に比重を多くとることとした。品質劣化に関しても、養殖期間の短縮化(による薄巻き化)を招いた、赤変病に対する複数の産地の異なった反応について制度論的に焦点を絞り、分析を行った。このテーマに関して、5月にZOOM開催に変更された国際ワークショップでの発表を行った。【B 品質評価についての聞き取り調査】非常にデリケートな内容を含むテーマであるため、文書から探るのは難しく、聞き取り調査が必要な領域であったが実施が困難であった。真珠ガイドラインの制定をめぐる文書研究への変更を検討している。【C“Imagined Future"(想像された未来)】についても当事者への直接聞き取りという形での調査は困難であったため、Aの領域と合わせて、様々なプレイヤーが、真珠の持続可能性についての判断と行動が求められるイベントに対して、どのような行動をとったかを丁寧に追う事例研究を行い、どのような”想像された未来”が共有されているのかを推定する手法での研究遂行に方針転換した。【D 新興国における組織フィールド形成の国際比較研究】こちらも実施不可能であったので、各国における真珠品質の基準とガイドラインの制度比較に方針を転換する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2020年度の大きな二つの制約に直面をした。第一は、コロナ下での移動制約における現地調査の続行の困難である。もう一つは、真珠養殖における、真珠貝の稚貝の大量斃死問題である。1990年代から2000年代初頭におこった赤変病による大量斃死からようやく立ち上がった産地を直撃したため、聞き取り調査をメインに計画していた本年度の研究は、非常に大きな制約を受けることとなった。そのため、以下のような方針の転換を行い、研究を続行した。
1 データ収集と分析の方法:2019年度までに行った聞き取り調査の続行を中断しドキュメントの整備と読み込みを行い、イベント分析を体系的に行った。 2 テーマの発展的修正:当初計画では、真珠そのものの品質評価をめぐる組織フィールドの分析に主眼を置いてきたが、グローバルな動向として、品質評価においてもサステナビリティにより多くのウエイトが置かれるようになっていることを鑑みて、もともとの真珠の品質の基盤になる、良質の真珠を養殖するにふさわしい母貝の品種と、生物多様性に焦点を当て、むしろ、大粒化や色味などの市場における評価基準が、種の選択に影響を及ぼしてきたプロセスに焦点を絞って、データを収集することとした。 3 成果:具体的には、1990年代に発表された真珠研究の年報に丹念に眼を通して、どのような主体が、どのような品質の次元を最大化するためにどのような行為を行ったのかについてケースを執筆した。この内容に基づき、15th Organization Studies Summer Workshop 2020, Organizing Sustainably: Actors, Institutions, and Practices(2020年5月20日‐23日)にて報告を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
本来、予定していた4つのカテゴリーの調査に関して【A 日本における養殖真珠の品質の形成についての研究】は、上記の内容で研究の方向を確定し、レビューワークをやり直し、また、イベント分析を精緻化させ、投稿論文を執筆する。【B 品質評価についての聞き取り調査】上記で述べた通り、インタビュー中心の方針を修正し、真珠ガイドラインの制定をめぐる文書研究を行う。【C“Imagined Future"(想像された未来)】についても当事者への直接聞き取りという形での調査は困難であったため、Aの領域と合わせて、様々なプレイヤーが、真珠の持続可能性についての判断と行動が求められるイベントに対して、どのような行動をとったかを丁寧に追う事例研究を行い、どのような”想像された未来”が共有されているのかを推定する手法での研究遂行に方針転換し、【A】の研究に取り込む。【D 新興国における組織フィールド形成の国際比較研究】こちらも本年度も実施困難が予想されるため、各国における真珠品質の基準とガイドラインの制度比較に方針を転換し、【B】の研究に取り込んで統合化して、実行する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、本研究の研究対象である真珠産地と取引集積地への聞き取り調査と海外学会での報告を予定していたが、コロナ下の移動制限のため、別の手段に切り替えたたため、差額が生じた。2021年度は、様子を見ながら、聞き取り調査を再開して本来の計画をそのまま続行する部分と、情報ソースを追加・変更して、公式文書等の大量コピーと分析のために差額分の予算を振り向ける予定である。
|