研究課題/領域番号 |
19K01967
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
熊倉 広志 中央大学, 商学部, 教授 (10337826)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 広告効果 / ブランド選択 |
研究実績の概要 |
購買に対する直接的で短期的な広告効果は、リーセンシー効果とよばれる。すなわち、消費者が、カテゴリ購買(たとえば、洗濯洗剤)の直前にブランド広告(たとえば、花王アタック)に接触したとき、ブランド名を想起することにより、当該ブランドを選択する確率が高まる。近年、デジタル技術の発展により、時点や状況を特定して消費者に広告接触させることが可能となってきていることなどを背景に、リーセンシー効果の意義が改めて注目されている。一方、先行研究においては、理論化は途上であり、たとえば、どのような環境・条件下で観察できるのかなどは明確ではないようだ。さらに、効果の測定方法も十分には整備されておらず、たとえば、広告効果の持続時間などは明らかではない。本研究では、リーセンシー効果の理論的メカニズムを再検討することにより、どのような環境・条件下において効果が発現するかを理論的・実証的に考察する。さらに、効果測定方法を精緻化し、効果の強弱・持続時間・時間的減衰などを測定するモデルを提案する。 これまでの分析によれば、リーセンシー効果は常に観察できるわけではなく、特定の条件下で顕著に観察されると期待できる。すなわち、消費者間・ブランド間・チャネル間の異質性が高い。たとえば、チャネルに注目したとき、自動販売機・コンビニエンスストアなど、少量の製品を、相対的に高価格で購入し、購買から消費までの時間的ないし心理的距離が短く、価格弾力性が低いチャネルにおいて、リーセンシー効果は顕著である一方、ディスカウントストアやスーパーマーケットなど、大量の製品を、相対的に低単価で購入し、購買から消費までの時間的距離や心理的距離が長く、価格弾力性が高いチャネルにおいては、リーセンシー効果は観察できていない。 今後は、どのような条件下で広告効果が観察できるのかを識別すると共に、当該差異を創出する理論的背景を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定に対し研究の進捗がやや遅れている。この背景は、以下の通りである。リーセンシー効果に関する先行研究をレビューした後、ロジット・モデルを構築し、価格が低く・購買頻度が高い消費財市場から得られた購買履歴データにあてはめたところ、あてはまりが必ずしも良好ではなかった。その原因として、消費者間・ブランド間・チャネル間の異質性などが考えられた。そこで、階層ベイズにより消費者・消費状況・ブランド・チャネルなどに注目して細分化することにより、あてはまりを改善させてつつある。今後は、異質性の理論的根拠や細分化の理論的妥当性を検討することなどのより、モデルをさらに精緻化していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、先行研究に依拠しながら、リーセンシー効果の程度(強弱)・継続時間・時間的変化(減衰)を容易かつ頑健に測定できるモデルを提案することを試みる。先行研究における効果測定手法はやや記述的であり、効果の継続時間や時間経過による変化を測定できていない。そこで、ここでは、たとえば、要因(広告接触)と反応(ブランド選択)との関係を示す指標であるオッズ比などに注目することにより、広告接触とブランド選択との関係を測定するモデルを提案したい。なお、本モデルは、ロジット・モデルとして実装できる。このとき、階層ベイズを用いることなどにより、消費者間・ブランド間・チャネル間の異質性を考慮できる。 現時点での分析によれば、特にチャネル間の異質性が注目される。すなわち、自動販売機・コンビニエンスストア(CVS)など、少量(バラ買い)の製品を、(相対的に)高価格で購入し、購買から消費までの時間的距離や心理的距離が短く、価格弾力性が低いチャネルにおいて、広告効果は顕著であった。一方、ディスカウントストア(DS)やスーパーマーケット(SM)など、大量(まとめ買い)の製品を、低単価で購入し、購買から消費までの時間的距離や心理的距離が長く、価格弾力性が高いチャネルにおいては、広告効果は観察できなかった。そこで、チャネル間における消費者の心理・購買行動の差異に注目しながら、リーセンシー効果を理論的かつ実証的に考察していく。さらに、ブランド間や消費者間の異質性についても検討を加えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
米国在住の研究者と共同で研究中であり、2020年春に当地に滞在し共同研究を行った。しかしながら、コロナ禍により中途で帰国を余儀なくされた。その後、渡米し対面で議論する機会を得ることができていない。これらにより、研究費の使用額に変化が生じた。今後は、メールやオンライン等による意見交換により、また社会情勢の好転後は当地への渡航・滞在などにより、研究を再び活発化させたい。
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