研究課題/領域番号 |
19K01982
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
君島 美葵子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50645900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 管理会計システム / EC / 中小企業 / 業績測定 / 電子化 |
研究実績の概要 |
2020年度の当初研究計画は,日本企業を対象とした電子商取引の顧客接点マネジメントに関する実態調査,調査結果のまとめと検証を行うことであった。一般に商取引の形態は,B to B(Business to Business)取引,B to C(Business to Customer)取引が代表的であり,本年度はB to C 取引を対象とした。電子商取引は企業規模を問わないため,日本の中小企業を研究対象とした。具体的には,中小企業が商取引上の顧客接点をどのように管理しているのか,そこにはどのような関係者が関与しているのか,を踏まえた管理会計システムの導入に着目した。 2020年度は,3つの側面から研究成果を発表した。1つ目の側面は,中小企業での業務記録の電子化が,各種経営意思決定に影響を与えることを明らかにした点である。この研究実績は,「中小企業における業務記録の電子化が会計管理へ与える影響」(日本簿記学会第36回関西部会,2020年10月25日)で発表した。2つ目の側面は,中小企業への管理会計導入に着目し,顧客接点マネジメントと密接な関わりがある販売管理において,在庫帳の電子化や得意先管理を通じた管理会計実践がなされていることを確認した点である。この研究実績は,「ファミリービジネスにおける管理会計の導入と実践―老舗中小企業の事業承継を事例として―」(『産業経理』第80巻第2号,2020年)で発表した。3つ目の側面は,各種ステークホルダーに対する電子商取引の説明の具体性と説得力を高めるために,電子商取引のリソースとプロセスの管理責任を説明できる業績測定指標を提示した点である。この研究実績は,「デジタル時代のマーケティング・アカウンタビリティの課題―管理会計とマーケティングのインターフェイス―」(『Direct Marketing Review』第20巻,2021年)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究実施計画は,日本企業を対象とした電子商取引の顧客接点マネジメントに関する実態調査,調査結果のまとめと検証であった。そこで本研究は,顧客接点マネジメントが電子商取引で必要とされる企業における,顧客属性に応じた管理会計システムの在り方を検討した。本年度の研究はB to C 取引を行う日本の中小企業を研究対象とした。 実態調査,調査結果のまとめと検証は,宗田・君島(2020)の学会報告,及び宗田・君島(2020)の論文で発表した。B to C取引において,現在電子商取引環境を整備している企業を研究対象として,業務記録の電子化が,正確な物量管理や利益管理,迅速な経営意思決定につながることを明らかにした。また,顧客接点マネジメントでは,B to C取引を支援・仲介する企業との接点も考慮が必要で,特に在庫帳の電子化や得意先管理で管理会計が実践されていた。B to C取引を支援・仲介する企業を考慮するという点は,現在までの研究進捗の中で新たに発見したものである。そのため,今後の研究の分析視点として活用していきたい。また,君島(2021)では,デジタル時代に直面する電子商取引で会計責任を果たすということについて管理会計の視点から考察した。この研究視点は,2019年度の研究課題を受けたものであり,各種ステークホルダーへの説明の具体性と説得力を高めるために,電子商取引のリソースとプロセスの管理責任を説明できる業績測定指標を提示することが課題であることを明らかにした。 以上のことから,2020年度は当初研究計画に沿った研究活動を実施でき,今後の研究の分析視点も新たに得られたことからおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,日本企業における電子商取引を対象として,「顧客接点マネジメント」への管理会計技法の理論化を行った。具体的には,電子商取引における顧客接点マネジメントと管理会計システムの関係性を調査し,その内容を分析した。一般に商取引では,取引顧客の管理が重要である。本研究ではその管理を「顧客接点マネジメント」と称する。顧客接点マネジメントに対して,管理会計システムや個別の管理会計技法をどのように利用できるのか,もし利用できるのであればその理由は何かを追究している。そのために,以下の研究の推進方策を考えている。 電子商取引を行う日本企業を対象として,管理会計技法,及び管理会計情報の活用に関する聞き取り調査を継続的に実施する。ここでは,事業が対象とする顧客の特定を主要検討事項として,顧客へのサービスとそれに対する経営資源配分とその活用,及び評価方法を調査する。なお,2020年度は,新型コロナ感染症の流行により,研究出張による移動は行わなかった。これは,対面による聞き取り調査を行う際に,調査対象企業へ業務負担をかけないためであった。今後の聞き取り調査では,対面での聞き取りだけではなく,Web会議システムを用いた聞き取りも並行したいと考えている。 本研究の今後の方向性を示すため,本年度は雑誌論文や学会報告とは別に,経営リスク共生の観点から「新たな働き方と会計―営業活動に焦点を当てて―」という解説を執筆した。ここでは,働き方の変化にともなう業務内容の変更は,会計のあり方を考え直すきっかけを与えることを前提に,本研究の計画時に想定されなかった経営リスクを考慮した研究視点も含めたいと考えている。そして,現代の電子商取引において,顧客接点マネジメントのあり方を捉えて,そこに管理会計システムがどのように関わるのかを明らかにすることが今後の研究の推進方策となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,研究活動の移動に伴う旅費の発生が無かったことが大きい。この使用額は,2020年度に使用できなかった旅費として使用することを想定している。
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備考 |
雑誌論文,研究発表等の他に,本研究の研究成果をWebページに公開した。 横浜国立大学リスク共生社会創造センターコラム「リスク共生の視点から新型コロナ対応を考える」内の「新型コロナウィルスと経営学」において「新たな働き方と会計―営業活動に焦点を当てて―」(2021年)を執筆した。
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