研究課題/領域番号 |
19K01983
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大雄 智 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40334619)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | エクイティ / 資本会計 / 会計主体論 / 持分会計論 / 残余請求権 / 企業利潤 / 超過利潤 / 概念フレームワーク |
研究実績の概要 |
当年度は、近年の株主第一主義とステークホルダー主義の論争をレビューするとともに、衡平な成果の分配という観点から株主持分の意義を再考した。現行の会計制度では、バランスシート上の利益剰余金の期末残高はすべて株主の取り分とされているが、企業はゴーイング・コンサーンであり、複数の会計期間をまたいで、各利害関係者の貢献に応じた、より衡平な成果の分配が図られる可能性がある。 当年度は、各利害関係者が、外部の第三者の仲裁に依存することなく、互いにある程度満足できるように利害を調整する方法を検討した。そうした方法と企業成果の測定と分配をめぐる会計ルールとの関係を解き明かすことが今後の課題である。 本研究は、企業が明示的契約のみならず黙示的契約からも構成され、株主以外の残余請求権者が存在することを想定した企業観(Zingales, 2000)、および、外部株主が財務資本を拠出する一方、内部の経営者・従業員は人的資本(アイディアのような無形資産)を拠出するとみて、企業成果に対するそれぞれの取り分が事後の交渉によって決まるとするMyers(2000)の企業モデルから着想を得ている。[残余請求権者=株主]という前提に依拠した現行の企業会計の限界を明らかにし、組織としての企業に着目した会計制度を展望した論文を、前年度、Accounting, Economics and Lawに投稿し、当年度公表された。 また、企業成果の測定の信頼性に焦点を合わせた論文を日本会計研究学会第79回大会にて報告し、『會計』(2021年2月)に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、持分を企業利潤の衡平な分配という観念にてらして社会的に定まる概念ととらえたうえで、専門経営者や企業特殊的な知識・技術を習得する従業員など、株主以外にも残余請求権者としての性格を有する利害関係者を想定し、企業利潤に対する各当事者の取り分が事後的交渉によって決まる状況での利益測定のあり方を検討するものである。 当年度は、近年の株主第一主義とステークホルダー主義の論争をレビューするとともに、衡平な成果の分配という観点から株主持分の意義を再考した。また、各利害関係者が、外部の第三者の仲裁に依存することなく、互いにある程度満足できるように利害を調整する方法を検討し、それと会計ルールとの接点を探った。この作業は、ゴーイング・コンサーンを前提とした会計測定の基礎概念の意義を再解明することにもつながる。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、無羨望、平等性、効率性といった観点から、利害関係者間における企業成果の分配のあり方を検討し、それと会計測定の基礎概念との関係を考察する。また、引き続き、Schumpeter(1926)、Knight(1921)、Kirzner(1973)などの企業家論をレビューし、競争市場および企業組織における利潤の源泉と役割を問う。 なお、利潤(とりわけ超過利潤)の源泉が、専門経営者による企業家的活動や従業員による企業特殊的投資にあるとすれば、現行の企業会計では、バランスシート上の株主持分に株主以外の利害関係者に帰属する分が混入し、株主持分簿価が過大計上されていることになる。そうした可能性を考慮した企業価値評価のあり方を検討することも今後の課題である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額35,299円が生じたのは、購入予定の物品(図書)を執行期限までに発注できなかったためである。 (使用計画) 次年度使用額35,299円は、当年度の物品費(図書費)として使用する予定である。
|