研究課題/領域番号 |
19K01986
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小津 稚加子 九州大学, 経済学研究院, 教授 (30214167)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | IFRS導入 / 新興国 / コスト・ベネフィット |
研究実績の概要 |
本年度7月に、ベトナム金融庁の職員研修の講師として招かれた。このとき、日本とベトナムを対象としたIFRS導入調査を口頭報告し、IFRS導入期における両者の類似点と違いを精査した。ベトナムでは、会計原則と会計基準(VAS)が制度としてあり、ここにIFRS導入を目指している。しかし、計画通りに進んでいない。そこで、この状況を打開し、新たな方向性を探求するため、日越の比較研究を行った。日本企業の2008年とベトナムの2023年を比較可能な時点であると前提したうえで、任意適用である場合にベトナムにおいて生じうる問題を明らかにした。とくに、①公正価値ヒエラルキーについての理解、②外国企業へのIFRS適用、③産業別の会計基準の作成とIFRS適用の範囲、を論点として挙げることができる。ベトナムでは日本型のコンバージェンス・アプローチに、また特定の産業保護を目的として日本のIFRS普及戦略に関心を持っていることを確認した。 ワークショップでは様々な意見交換ができた。とりわけ、アジアの権威主義国家であり、また海外からの投資が著しい国においてグローバル会計基準対応の難しさを直接把握することができたのは成果であった。これまでに収集した先行調査研究の脆弱さ、研究の質についても、政策担当者に質問した。IFRSについての誤解(IFRS導入後は継続適用となることなど)を会計教育と併用することで早急に対処すべきであることが確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度から研究対象をベトナムに絞って、IFRS導入の現状把握、情報収集に努めた。ベトナム金融庁の責任者との面談をしたし、当該国の会計基準の動向を追跡調査もしたが、研究過程で判明したのはIFRS導入そのものがとん挫していることであった。同国内の粛清は、新聞報道されている通りである。国内政治の動向は予想外であったため、現時点で、現地調査をしても得られるものが少ないと判断して、実施しなかった。また円安も当初の研究計画を見直さねばならない一因であった。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度が最終年度となる。これまでに行ったインタビュー調査・サーベイ調査を踏まえ、また可能な限り新規の調査を追加し、ベトナムにおけるIFRS導入についての現状と課題を中心に総括する。当初、科研のテーマはアジア新興国を視野に入れていたが、ベトナムという特定の国にしぼり、IFRS導入の課題をIFRSの理解度(例えば、VASと比較した時のIFRSの特徴である公正価値評価の認識のされ方、IFRS初度適用後の継続性、大学教育における会計学の位置づけ)をも含めて指摘する。研究成果の口頭報告も予定しており、国内の学会で発表を計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初の研究計画通りに研究が進まなかったことが主たる理由である。その理由としては、内政の変化がグローバル基準の採択に影響を与えたことが挙げられる。研究対象として、アジア新興国の中でもインドシナ諸国を想定していた。研究開始当初は、コロナ禍で研究が進まなかったこともあったが、リモートでインフォーマントに面会し、国際会計基準導入に向けたロードマップを把握することができていた。その後、ロードマップ通りに進展するかどうかを観察する局面に入ってから、情報の取得が困難になった。また、急激な円安になり、研究費の効果的な運用を吟味して、海外出張を控えた。つまり、次年度使用額が生じた理由は、①コロナ禍前に立てた研究計画をコロナ期に研究遂行できなかった、②対象としていた国の内政が大きく変化したため、国際会計基準の導入自体が白紙に近い状況となった、③円安により、海外出張を見送らざるを得ない状況になった、である。 来年度の使用計画としては、次の事項を考えている。まず、インドシナ諸国(特にベトナムにおける)グローバル基準への対応が変化する前の状況を整理する。次に、内政の変化に関わらず、グローバル基準(完全なIFRSと中小企業向けIFRS)の受容に関連して新興国が抱える課題についてまとめる。後者に関しては、会計教育や大学のカリキュラムにおける簿記教育の位置づけについても考察を加える。
|