研究課題/領域番号 |
19K01996
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤井 誠 日本大学, 商学部, 教授 (80409044)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 企業活動 / 国際化 / 会計基準 / BEPS / 国際課税 / 国際的二重課税 / 整数計画問題 / アルゴリズム |
研究実績の概要 |
企業活動の国際化が進行し,会計基準の国際化とは別に,税法規定も大きく変化しつつある。そして,企業活動の国際化の進展とともに租税回避の国際化もまた進化を遂げ,これへの対応策も国内法の整備から,BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)行動計画にみられるように国際的な協調という新たな段階へと進んだ。その一方で,国際課税の基礎理論との関係が不明瞭な税制度も存在し,特に問題と考えられるのが,国際課税においてしばしば議論されてきた国際的二重課税問題についてである。日本の税法は,本支店形態の場合には外国税額控除方式を採りつつ,親子会社形態の場合には国外所得免除方式を採るという,制度内の矛盾を抱えている。 整数計画問題は実行可能解の数が有限となる場合が多く,理論上は全ての実行可能解を列挙すれば最適解を求めることが可能になるが,問題の規模の増大とともに解の個数が急激に増加するいわゆる組合せ爆発が起きるため,この手法は実用的ではない。 しかし,整数計画問題の解法技術における近年の急速な進化は,法人の意思決定に確実に影響を及ぼすことになる。コンピューターの計算能力とアルゴリズムの発達は,このような課税の有無や税率を考慮した投資組合せの最適解を,高速かつ正確に探し出すことを可能にし,それが広く普及するのは時間の問題であり,これはAIの発達の前段階の差し迫った問題と思われる。制度設計において,このような未来を考慮しておくことは不可欠であり,先回りしておかなければ,取り返すことが難しい資源配分の歪みをもたらすことになる。一度なされた資源配分を変更するためには,賦存効果あるいは現状維持バイアスにより,新たな誘因が必要になるためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資本輸出中立性と資本輸入中立性は,二者択一のものではなく,対象法人を明確にすることにより,相互補完的に両立することを指摘した。国外所得免除方式は内国法人に対する居住地課税との矛盾により棄却される。ただし,外国税額控除方式は資金のロックイン効果により,国外所得免除方式の場合との違いがなくなるというジレンマに陥る。また,国外所得免除方式は資本配分の歪みをもたらす弊害を根本的に排除できず,資本配分は税率に依存することになるため,税の引下げ競争を誘発する。資金調達の選択という観点からは,「居住地課税+外国税額控除制度」の優位性が明らかとなり,間接納付分の外国税額控除制度に戻すべきとの結論に至る。BEPS行動計画等の国際的租税回避防止策は必要不可欠であるが,重要なのは資本配分の歪みをなくし,租税回避の温床を予め取り除いておくことである。 以上のような基礎理論に立ち返った研究は,予定通り行うことができ,企業活動の意思決定における税制度の位置付けとの関係において,この基礎研究を土台とするアルゴリスムの発達の一端を明らかにすることができたことから,研究計画は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
従来の国際課税の領域における研究は,企業の事業活動の国際化に焦点を当てたものが主流であったが,事業活動の前段階における資金調達活動との関係性に着目することが重要であると考えられる。ここで重要な要素となるのは,資金調達コストの課税関係である。日本を含む多くの国の税制度において,企業会計の取扱いと同様,Debt Financeに伴う利息は損金算入されるのに対し,Equity Financeに伴う配当は損金不算入とされる。 以上の事実は,前述の国際的な課税をどのように規律するかという問題に,新たな検討材料をもたらすとともに,計算複雑性理論における組合せ問題を用いた研究が必要であることを意味する。計算複雑性理論の分野では,P≠NPを前提として,判定問題のクラスはつぎのように整理されている。なお,P≠NPは現時点では予想であり,P=NPであるとすると,P,NP,NP完全はすべて同一となる。 本研究においては,事業活動と資金調達活動との関係性に着目するため,主としてNP完全またはNP困難に属する線形計画問題および整数計画問題に焦点を当て,最適組合せの探索とその租税回避性ならびに必要な対応策を探求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は概ね順調に進んだものの,2020年に入ってから,新型コロナウィルスの影響により,出張を伴う研究活動に支障が出たため,予定していた研究会の開催を延期したことが次年度使用額が生じた理由である。 今年度に入り,研究活動を再開すべく,遠隔会議システムを利用する等の準備を進めており,6月を目処に一部方法を変更して研究を進める予定である。 なお,海外出張を要する研究活動については,今後の動向を注視しつつ,一部の研究活動を次年度のものと入れ替えて実施するなどの方法を検討する予定である。
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