研究課題/領域番号 |
19K02000
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研究機関 | 文京学院大学 |
研究代表者 |
中島 真澄 文京学院大学, 経営学部, 教授 (90249219)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 経営者意識 / MD&A情報 / 会計不正 / 裁量行動 / ガバナンス / テキスト・マイニング分析 / アーカイバル分析 / 利益の質 |
研究実績の概要 |
本研究は、不正のトライアングル・ファクターの「正当化」を数値化し、会計情報と経営者意識、経営者意識と非財務情報の各因果関係を解明することであった。2020年度の実績としては、米国会計研究学会(AAA)および台湾会計学会(TAA)で報告した研究がある。AAAでは、日本の上場企業最高財務責任者(CFO)の回答(Nakashima 2019)に依拠して構造方程式モデリング(SEM)を採用し、Planned Behavior(計画行動理論), Protection Motivation Theory(保護動機理論), and the Deterrence Theor(抑止力理論)を応用しし、会計基準が不正表示のための利益の裁量行動に有意な負の効果を持つ一方で、ガバナンスと内部統制が不正表示のための利益の裁量行動に正の効果を持つことがわかった。 TAAでは、経営者の倫理観やインセンティブ・プレッシャーが、認識された利益の質に影響を与えるかどうかについて、Planned Behavior(計画行動理論)に基づき、Upper Echelon(上層部)理論と不正のトライアングル理論を援用し、経営者の倫理観をTone at the Top(TATT)として定量化し、SEMを行った。その結果、TATTは、認識された利益の質に有意な正の効果を持ち、インセンティブ・プレッシャーは認識された利益の質に有意な負の効果を有していることが明らかとなった。 また、不正のトライアングル理論に依拠した代理変数を用いて会計不正を予測した研究は、Journal of Forensic and Investigative Accountingに掲載が決定した。さらに、MD&A(Management and Discussion and Analysis)情報での会計不正の予測研究は、米国査読ジャーナルに投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、利益の質と理論と実務との整合性に関する分析を行う」(課題A)については、経営者に対する面談調査はCOVIT-19により実施できていないが、定量化した経営者意識(TATT)と、利益の質モデルを含めた基本モデルに依拠して会計情報とを融合させたアーカイバル分析を実施して、財務報告の質と経営者意識との関連性を解明する研究についてはオンライン学会で報告することができた。 また、2年目の「経営者意識とナラティブ情報との関連性をテキスト・マイニングによって検証する(課題B)については、MD&A情報のテキスト分析を通した可読性研究は、学会報告を経て現在ジャーナルへ投稿中である。ナラティブ情報のテキスト分析を通して不正企業と非不正企業の可読性の比較研究は現在おおむね進行している。最終年度において、ナラティブ情報での研究結果からの新知見について汎用性があるかどうかについては拡大サンプルで試みる予定である。課題Bは学会報告に投稿中である。 さらに、最終年度における応用論点である課題Cについては、経営者倫理とナラティブ情報との関連性を包括的にとらえ、経営者意識がどのように会計不正関与につながっているかに関するメカニズムを究明する。特に、ナラティブ情報のTone(ボジティブ用語とネガティブ用語から算出)と経営者の裁量行動との関連性についてモデルの精緻化をすすめていく。 2020年度上期はオンライン授業実施のための準備に時間を要し、研究に費やせる時間が減少してしまったが、下期には、こまぎれの時間に研究を推進可能となり、研究の遅れを取り戻せることができた。また、学会もオンラインで開催されるようになって、研究報告ができる機会もこれまでどおりとなり、研究実績を蓄積することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、2年次におけるナラティブ情報での研究結果から導出された新知見の汎用性があるかどうかを明らかにするために、他のナラティブ情報の拡大サンプルで分析を実施する予定である。すなわち、初年次のサーベイ調査の回答企業のナラティブ情報についてTone(ポジティブ用語とネガティブ用語)を算出し、そのToneと回答結果から導出された経営者倫理観(TATT)との関連性を検証する。 また、不正企業および非不正企業におけるナラティブ情報のテキスト分析結果と財務諸表数値との関連性分析をすすめる。こうして、最終年度では、経営者倫理とナラティブ情報との関連性の分析を包括的にとらえ、経営者意識がどのように会計不正関与につながっているかについてメカニズムを究明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の国際学会がすべてオンライン開催となったため、学会開催地までの旅費交通費の支出が必要なくなったため、当初予算化していた旅費交通費を次年度に繰り越すこととした。当該予算については、ナラティブ情報のテキスト分析結果から導出された新知見の汎用性を検証するために、不正企業および非不正企業、サーベイ調査回答企業の2つサンプルで分析を実施することにする。
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