2021年度の実績としては、日本経済会計学会第38回年次大会において、次の報告を行った。米国上場の日本企業のサンプルを用いて、CEOレターのテキスト分析を行い、可読性の指標であるジャカード係数と原点からの距離に着目したテキストの特徴が、不正企業と非不正企業間で、また、不正検出前後で異なるかどうかを検証することで、難読化仮説を検定した。不正企業のジャカード係数は、不正検出後よりも不正期間中の方が高く、用語は原点から遠くにプロットされている。これは、不正実行時に経営者が印象管理を用いて文章を難解化し、投資家をミスリードした可能性を示唆した。 また、日本会計研究学会第80回大会および2022年度米国会計研究学会フォレンジックセクションでは、東芝CEOレターのトーンが、非不正企業のCEOレターのトーンと異なるかどうか、不正発覚前後のトーンに有意差があるかどうかについての結果を報告した。当該報告では、ポジティブな言葉は不正実行期間中に、ネガティブな言葉は不正検出後に有意に関連しており、非不正企業ではポジティブな言葉もネガティブな言葉も有意に関連していること、非不正企業ではTONEと財務数値に正の相関があるが、不正企業ではTONEと財務数値間に相関がないことが分かった。当該結果は、非不正企業CEOレターに書かれているナラティブは、誠実性の原則に依拠して真実の財務数値に基づいているが、不正企業CEOは、真実の数値と粉飾した数値の両方を知っているため、虚偽に基づいて論旨を書こうとするが、真実を忘れることができず、結果として言葉が財務数値と整合しなくなると思われる。 また、MD&A(Management and Discussion and Analysis)情報で会計不正を検出する研究は、米国査読ジャーナルに掲載が決定した。
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