研究課題/領域番号 |
19K02008
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大塚 成男 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (20213770)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地方公会計 / 地方財政 / 中期財政計画 |
研究実績の概要 |
今年度は、これまでの調査から得られたデータや資料を再度検証し、全体として一貫する概念的な枠組みを構築することを目標とした研究を行った。 本研究の意義は、先進的な地方公共団体における現実の取り組みに関する事例や資料を可能な限り幅広く収集し、その内容の相互比較を行うことで、地方公共団体において一般的に採用可能な地方公会計情報の活用方法を明らかにすることである。さらに、その検討にあたっては地方公共団体における将来計画と地方公会計情報との関係を重視している。 今年度の研究成果としては、これまでに収集した事例を再度検証することによって、地方公共団体において資産情報を活用しようとする取り組みが、団体の支払能力の評価ではなく、将来に向けた施設の維持・更新計画につながっていることが確認できた。さらに、主として財政非常事態宣言等を発出した団体の財政状況とコスト情報とを突き合わせることで、それらの団体に共通して業務収入は減少し、結果として歳出は削減されていながら、コストは増加していることも明らかにできた。これはコスト情報が団体の将来における財政状況の悪化を予測する指標となり得ることを示唆している。 また、地方公会計に関する指針の形成過程を再検証することで、会計制度の構築という観点から地方公会計と企業会計とを対比することで、両者の差異を生み出している要因を検討した結果として、会計制度を形成する基本的な変数として、理論的な基盤だけでなく、会計環境や財務会計に対する社会的な要請があることも明らかにできた。 地方公共団体の財政運営が中長期的な将来予測に基づいて行政活動の効率性を高めるものであるべき必要性は増大している。その点で、本研究が明らかにしようとしている将来計画の策定と連係させた地方公会計情報の活用方法には大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、先進的な団体に対する訪問調査や、各団体で地方公会計情報の活用に取り組んでいる職員との対話を具体的な研究手法として重視している点に大きな特徴がある。しかし、2020年春以降の新型コロナ・ウイルスの感染拡大に伴う措置によって、団体への直接的な訪問調査は実質的に不可能になった。すでに調査や対話の実績がある団体については今年度中もリモート会議システムを用いた意見交換を行った団体もあるが、新規の団体に関する調査は行うことができなかったのが実情である。また、リモート会議システムを通じた意見交換を行うことができた団体についても、財政部門の職員がコロナ禍対策の行政事業の支援に向けられていることが多く、意見交換のための十分な時間をとることができなかった。さらに、本研究では学生アルバイトによる人海戦術での資料収集を行うことも計画していたが、2020年度中は学生が大学に立ち入ることができない状況が続き、アルバイトを募集することもできなかった。結果として、本年度は分析の対象とすることができる新たな資料・情報をほとんど集めることができなかった。 そこで、本年度はすでに入手されている資料・情報の再検討を中心に研究を行い、一定の成果をあげることはできた。ただし、新たな資料・情報が得られなかったことで研究の進捗は遅れていることは否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
実地調査を重視する本研究においては、新型コロナ・ウイルスへの対策が2021年度中も継続されることが予想される点が、研究遂行にあたっての大きな障害となる。2021年度における対策としては、リモート会議システムによる意見交換の対象となる団体の拡大を図るとともに、比較的近距離にあるため直接の訪問が可能な団体での資料・情報の収集を図るしかない。 従来から積極的な取り組みをしてきている千葉県習志野市や千葉県君津市は、2021年度において行財政改革における公会計情報の活用を図る方針であり、それらの団体とは直接の対話が可能である。また、2021年2月に財政非常事態宣言を発出した静岡県裾野市では行政改革の取り組みに関与することになっており、その中で自らの研究を進めることができる。 しかし、本研究は次年度が最終年度であるが、新たな団体に関する資料・情報を収集することができないのでは本研究での当初の目的を次年度中に達成することは極めて困難である。それゆえ、研究期間の延長を申請することを検討している。 多くの地方公共団体において地方公会計情報を活用する取り組みは、コロナ禍対策を優先するために、棚上げの状況になっているのが実情である。しかしながら、2021年度の予算においてほとんどの団体が財政調整基金を大きく取り崩しているだけでなく、行政活動の拡大による財政負担の増大も懸念されている。したがって、本研究が進められるべき必要性は従来以上に大きい。地方公共団体でも、主として財政部門において、適切な将来予測に基づいて財政の中長期的な効率性を高める必要があることは強く認識されている。研究の進捗には遅れが生じているものの、本研究の遂行に地方公共団体の現場からの協力が得られる環境にはなっており、その環境を活かすことができるように研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウイルスの感染拡大防止を目的として、全国的に移動を制限する措置が採られたため、当初計画していた地方公共団体への実地調査をほとんど行うことができなかった。また、大学も閉鎖状況にあったため、学生アルバイトを採用してインターネットを通じた情報収集を行うこともできなかった。そのため、旅費やその他(アルバイト謝金)が残り、大きな次年度使用額が生じた。 次年度使用額と翌年度分の助成金については、2021年度中の訪問調査の回数を増やし、計画していた学生アルバイトによる情報収集を行うために使用する計画であるが、コロナ禍の状況次第で実施が難しくなる可能性がある。それゆえ、研究期間の延長を申請することを検討している。
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