本年度はコロナ禍の影響もなくなり、長崎県波佐見町(7月)、島根県吉賀町・津和野町(10月)、および大分県玖珠町(11月)において財政担当者と共同で財務書類情報の活用方法を直接に検討することができた。また、熊本県大津町と静岡県においても地方公会計の枠組みを将来計画の策定に用いるための具体的な取り組みを行った。さらに人的資本をテーマとした研究会と大分県臼杵市から講師を招聘した研究会を実施することができた。 波佐見町等での取り組みでは、コスト情報上の特徴と具体的な行政活動とを結びつけて将来の行政コストを予測することで、中期財政計画における人件費や物件費の予測を精緻化できることが確認できた。また、大津町では下水道の資金収支見通しを資金収支計算書の形式を用いて行うことが、将来の財政負担を明らかにすることが裏付けられた。そして静岡県行政経営研究会との取り組みでは、実績としてのコスト情報を固定費と変動費に区分することが将来の計画立案で有用であることが現実のデータに基づいて確認された。 今回の研究においては、補助事業期間中のコロナ禍の影響により、当初予定していた各地の地方公共団体への訪問調査が十分にできなかった点は否定できない。しかし、補助事業期間全体を通じた地方公共団体との直接的な交流・意見交換を通じて、地方公会計の導入により地方公共団体の財政に組み入られる新たな視点(資産情報と将来の財政負担との連係、コストとロスの区別、業務活動収支と投資活動収支の対比、コストにおける固定費と変動費の区分)が、中期財政計画の現実性を高める役割を果たすことは確認できた。コロナ禍後の地方公会計に対する関心の低下が懸念要因にはなるものの、少子高齢化・人口減少により予想されている将来の財政悪化に地方公共団体が対応するうえで、地方公会計の手法が果たし得る役割は大きいことを明確にすることができた。
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