研究課題/領域番号 |
19K02010
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
中村 博之 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (20217889)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 資本予算 / 管理会計 / 経営戦略 / 意思決定モデル / 財務情報 / 非財務情報 / 経営計画 |
研究実績の概要 |
本研究の問題意識は、企業の戦略実行手段とされる資本予算が、そのような戦略実行を推進することを目的としながら、現実には、むしろ抑制要因となっている可能性があることを察知したことから生じた。そこで、本研究では、先行研究の整理や企業実務の把握によって、どのようなメカニズムのもとで、資本予算が戦略実行の推進や抑制に関わっているかを解明することを目的とする。そのため、企業組織内の意思決定の手順や仕組み、そこで活用される管理会計的な意思決定計算に注目して研究を実施する。本研究は、管理会計を研究の中心とするが、経営戦略、財務論など戦略に関わる様々な研究領域を含めての検討が不可欠である。このことから、各領域の基礎的な先行研究を整理することから始め、戦略実行の管理会計の全体を確立した上で、企業訪問調査に向かう。 経営戦略に関する研究と管理会計研究を並行することから、当初は、この2つの研究領域の整理をすることとした。経営戦略に関しては、先行研究としての戦略関連の論文や文献によれば、戦略実行では、組織構造と管理システムが中心となることが明らかである。ただし、その意思決定のための管理システムなるものにおいて、具体的に、どのような資本予算による意思決定になるかは明示されていない。このことから、本研究では、経営戦略論では具体的に示されていない、企業の管理システムとして、どのような意思決定プロセスの中で、どのような意思決定管理会計の計算モデルを戦略実行と関連して用いることができるかを検討した。また、国内外の研究者と協力し、過去の研究の延長上で、個別企業の枠を超えた、グローバル経営を行う多国籍企業の経営の仕組みを検討した。このことで、それぞれの国や地域での戦略の違いとそれに応じた資本予算意思決定が行われるであろうことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、先行研究の整理や企業実務の把握によって、どのようなメカニズムのもとで、資本予算が戦略実行の推進や抑制に関わっているかを解明することである。そのため、本研究では、企業組織内の意思決定の手順や仕組み、そこで活用される管理会計的な意思決定計算に注目して研究を実施することとした。当初計画の通り、初年度には、助成金での購入による文献から、研究対象となる企業の選択に向け、戦略を経営の中心に据えた企業とは、どのような組織かを明らかにすることとした。そのため、混然とする経営戦略研究を整理し、戦略タイプとそれに応じた各種資源配分のための意思決定について研究した。その結果、従来の経営戦略研究では、戦略タイプ分類は丁寧に行うものの、それに応じた最終的な資源配分意思決定の中で、財務や非財務な情報がどのように作用するかを明らかにするには至っていないことが理解できた。すなわち、その戦略の策定と実行が関連する中で、実行段階では、今後について、どのような経営見通しに基づき、それを仮定としつつ、どのような種類の情報に依存するかを検討しなければならないことを今年度の研究で確認できたことになる。 戦略に基づく意思決定プロセスでは、情報と組織が大きな意味を持つ。この情報と組織は不可分であるが、管理会計については、情報として、財務情報のみならず非財務情報も必要であり、さらには、組織面では日本企業に特有な意思決定プロセスである、各種合議体が意思決定でどのような作用をするかも重要な検討事項であることも明らかになった。今年度は、今後に向けた研究初年度として、管理会計と経営戦略の先行研究の整理と今後の課題を確認でき、順調な研究に向かうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
経営戦略の実行を目指す意思決定プロセスでは、情報とそれを用いる組織が大きな役割を果たす。このような意思決定プロセスを分析するためには、用いる情報とそれが適用される組織の2つが重大に意義を持つ。情報的側面では、管理会計として、財務情報のみならず非財務情報を含めた、それら双方の活用が必要であり、管理会計意思決定モデル単独での意思決定はない。さらには、組織面では日本企業に特有な意思決定プロセスである、各種合議体を経ての意思決定が、意思決定モデルについて、どのような意味づけをするかも重要な検討事項であることも明らかになった。 このように、戦略実行の推進と抑制の仕組みを明らかにするために、2年目以降、上記で明らかになった研究の課題を解決に向けることとしたい。そのため、管理会計における資本予算情報という情報的側面からは、従来の研究がもっぱら目を向ける意思決定の方法論としての財務情報にとどまることでは課題解決はできない。そのため、財務情報と同時に重視される、非財務の内容についても検討したい。ここで、財務情報に併用される非財務情報の具体指標、さらには、その指標適用の論理を検討したい。また、非財務指標は複数であることが予想されるため、それぞれの情報の優先順位やウエイトなど、そして、そのようになる戦略と関連させた意義なども考えなくてはならない。 上記に続き、情報が利用される組織の面での検討も必要である。たとえば、意思決定構造として、様々な投資プロジェクトについて、プロジェクト特性に応じ、だれがどのように意思決定を行うかを確認したい。さらに、最終的な意思決定に至る各段階でパワー関係が存在するはずであり、そのことが戦略の推進と抑制とどのように関連するかを見極めたい。 このように、前年度の研究課題を解決を目指すこととしたい。このことが、今後の研究推進の上で不可欠になるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度所要額が生じた主な理由として、物品費が当初予定額を下回ったことが挙げられる。物品費の金額の相当部分は購入する書籍代金を予定していた。これら書籍の内訳について、日本及び海外の経営学、会計学関連の書籍を予定していた。ところが、日本語の書籍については、学内図書の有効活用ができたことや、最新図書については、予想以上に著者からの寄贈図書を受け、その利用ができた。このことから、予定より書籍などの購入数量、そしてそれに対する支出金額が少なくて済むこととなった。また、研究、分析を行うため、電子ジャーナルやインターネット資料を予想以上に十分活用できたこともあり、このことでも図書および資料購入の金額は減少した。このように、物品費が予定より少額になることが、次年度使用額発生の最大原因となった。 発生した次年度使用額については、この繰越金額と請求助成金額の合計額を有効活用して本研究をより円滑に推進したい。このように、第2年度の使用可能額が増大したことで、一層の研究拡大を目指し、より多くの国内外、特に欧米の関連文献の購入を行うこととしたい。また、可能であれば、前年度は購入に至らなかったノートPCなど、研究環境充実に向け、各種物品の購入も行いたい。この第2年度の研究費使用により、最終年度である次年度に研究目的を確実に達成するようにしたい。
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