本研究の最大の課題は日本企業の再生と発展を達成するには、長期的な企業戦略の実施に向けて、そのための実行手段の1つである資本予算を通じての投資意思決定の意義と仕組みを解明することにある。このことが必要となるのは、現状、日本企業の各種投資の停滞、失敗など企業の長期成長を果たすことができない、すなわち、戦略の推進ではなく、抑制に資本予算が関連しているという現状を憂えることから示唆を得たものである。 このため、本研究では、経営戦略と意思決定会計という2つの研究領域をそれぞれ検討を行い、それらを関連付けることで、戦略実行の失敗と言える、投資の停滞や失敗の仕組みを明らかにし、一方で、適切な資本予算の実施による戦略推進も解明することとした。このための研究アプローチとして、実務への示唆を提供することを目指していることから、理論的な基盤構築のための文献研究に加えて、企業実務に関するケース研究も併用することとした。 文献研究においては、先行研究から、各種投資プロジェクトの意思決定においては、その意思決定の置かれた状況へと深入りすることが重要である。従来、管理会計では、プロジェクトについて、単に投資目的やキャッシュ・フロー予測への言及が主であった。これについて、そのプロジェクトが、どのような戦略の位置づけにあり、その中で、他プロジェクトとの関連、長期的利益獲得の目論見、さらには、そのための財務のみならず、市場や知財などの非財務的な包括的な情報が必要であることが明らかである。このような状況に応じたプロジェクトの長期的かつ包括的な「値付け」のもと、短期利益を切り離した意思決定という条件のもと、正味現在価値や回収期間などの意思決定モデルを取り扱うことが不可欠である。実務的にも、洗練された意思決定モデルに加え、戦略性や革新性、顧客が重要な意思決定要素であることが明らかになった。
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