研究課題/領域番号 |
19K02012
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松尾 貴巳 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80316017)
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研究分担者 |
新井 康平 大阪府立大学, 経済学研究科, 准教授 (30550313)
上田 英一郎 大阪医科薬科大学, 医学部, 特別職務担当教員(教授) (40360036)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 管理会計 / ヘルスケア組織 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、医療サービスの質にとって重要な安全性に関わる組織文化と医療組織の経営(組織の持続可能性)にとって重要な組織業績の向上を両立させるための、診療チーム、医師個人に焦点を当てた新たな業績管理の枠組みを研究、開発することにある。本年度は、安全に関する管理レベル(規範・基準の設定と浸透・管理:Kruis et al., 2016)と業績管理システムの利用方法(計画・実績の対比に基づく診断的利用とコミュニケーションを重視した相互作用的利用:Henri ,2006)が、医療組織の安全文化(安全風土、安全意欲、安全遵守、安全行動:Neal and Griffin,2006)にどのような影響を与えるかについて、多様な病院、診療科の医師を対象とする質問票調査を実施した。その結果、安全に関する管理レベルを高めることは、安全風土の水準や安全意欲の向上をもたらすが、必ずしも安全行動の水準を高めることにはつながらないこと、安全行動につなげるためには、財務・非財務の業績管理においてコミュニケーション重視型の情報活用を行うことが重要であること、また、安全の遵守度を高めるためには、コミュニケーション重視型の管理は有効ではなく、計画と実績の定量的な対比を通じた管理が有効であることが明らかとなった。医療組織の安全文化を高めるためには、安全に関する管理レベルを高めることは重要であるがそれだけでは不十分であり、組織の課題となる安全文化の要素に合った業績管理の方法を採用することが重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の採択後、COVID-19の影響により、予定されていた特定病院内における医師へのインタビュー調査、医療従事者を対象とした質問票調査は実施できていない。このため、診療科別の特性に応じた業績管理のあり方を検討するための十分なデータを得ることができていない。しかし、2022年4月以降は重症患者数も低下し、外部からの調査受入に対する理解も高まったことから、個別病院における調査を開始することができており、研究期間の延長によって、当初の研究目的を達成できる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、研究期間の延長年度に当たり、遅れていた研究課題を実施できる状況にある。インタビュー調査と追加的な質問票調査を行い、診療科特性、医師個人の特性と業績管理システムの関係を明らかにし、診療科特性に応じた業績管理システムのあり方、個人のモチベーションの源泉となっている要素を考慮する必要性を明らかにすることで、医療の質と経営を両立できる業績管理のあり方を検討する。分析結果は、2022年秋以降に論文としてまとめ、ジャーナルへの投稿、学会報告を行うほか、協力病院の業績管理システムに反映させることについて病院と共同で検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、予定されていた協力病院における医師へのインタビュー調査、病院内の医療従事者を対象とする質問票調査は実施できていなかったため、診療科別の特性に応じた業績管理のあり方を検討するための十分なデータを得ることができていなかった。2021年度末には、協力予定であった病院の理解も得られたことから、研究期間の延長年度に当たる2022年度は、次の通り、当初計画にそった調査を実施する。 すなわち、①大阪医科薬科大学病院、久留米大学病院、神戸大学医学部附属病院、亀田総合病院等へのインタビュー調査(インタビュー調査に関わる旅費等:300千円)、②病院、医療従者向け質問票調査(質問票調査の実施、集計に関わる費用:1,296千円)、③ジャーナル投稿(英文校閲費、投稿料等、投稿に関わる費用:200千円)、④実務への導入に向けた検討(インタビュー協力病院との意見交換、導入の検討に関わる旅費等:300千円)である。
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