研究課題/領域番号 |
19K02014
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
繁本 知宏 香川大学, 経済学部, 准教授 (90756842)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 信用力 / 格付 / 財務指標 / 会計情報 / テキスト分析 |
研究実績の概要 |
補助事業期間3年目となる令和3年度は、実証研究の基盤となる理論構築に取り組み、研究成果を論文として公表した。 格付評価よりも広い概念としての信用力評価における理論モデルとしては、Merton(1974)ほかの構造型モデル、Duffie and Singleton(1999)ほかの誘導型モデルといった著名な理論が存在するが、これらは会計情報を利用しない数理的なモデルである。会計情報を利用するモデル(経験的モデルと呼ばれる)としてはAltman(1968)のZスコアが代表的であり、わが国でもZモデルを基礎としたモデルがいくつか提案されている。もっとも、経験的モデルの多くはデフォルトするか否かに焦点を当てがちだが、信用力評価においてはデフォルトからの距離も重要である。この点、格付はデフォルトからの距離に焦点を当てるモデルである。ただ、格付評価の理論の研究、とりわけ単一の格付会社だけでなく複数の格付会社のモデルを包括的に扱った先行研究はほとんど見られていない。そこで、わが国で活動する格付会社の格付規準書(クライテリア)をもとに、格付評価の理論(ただし財務リスク分析に限定)を帰納的に明らかにした。 その結果、格付評価における財務リスク分析においては、財務指標の実績数値を事業リスクと関連付けて解釈した上で、財務運営方針や流動性リスクの管理方針といった定性情報を加味して将来数年間の財務指標を予測することが、各社共通の考え方として浮かび上がった。また、こうした分析を行う際は収益性・収益力、ならびにキャッシュフロー・収益と有利子負債のバランスに最も着目し、さらに伝統的な信用力評価の視点とも言える規模や財務構造、利払能力にも目を向けていることが明らかになった。加えて、格付評価では公表財務諸表の数値を必ずしもそのまま使うとは限らず、必要に応じて独自に調整していることも改めて確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
補助事業期間3年目となる令和3年度は、当初計画では前2年間の成果を基にしてテキストデータを用いた新たな信用力評価手法を考察する予定であった。しかしながら、令和2年度において当初計画には含めていなかった頻出語分析の理論的基盤の解明を追加実施したため、その分で概ね1年の後ろ倒しが発生した。加えて現下の新型コロナウイルス感染拡大により、学会、私的研究会ともに開催が中止あるいは規模縮小が相次ぎ、研究成果を報告してブラッシュアップする機会を逸してしまった。こうした事情のため、本研究課題の進捗に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたように、本研究課題の進捗には遅れが生じている。こうした状況を踏まえ、本来であれば令和3年度が最終年度であるが研究期間を1年延長し、令和4年度を新たな最終年度とすることにした。 令和4年度に行うべき研究としては、令和3年度に構築した格付評価における財務リスク分析の理論をテキスト分析を用いて実証的に確かめること、実証研究の結果として理論と現実に乖離があればその原因を解明すること、さらに株式投資家を主眼において開発された会計基準に基づいて生成された会計情報を信用力評価においてもそのまま適用し得るのかといった視点から会計と信用力評価の関係を考察することを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、新型コロナ感染拡大防止に伴う移動制限から学会あるいは研究会へ出席するための出張旅費の使用額がゼロ円であったこと、ならびに研究進捗の遅れから論文投稿費が計画と比べて少なくなったことが挙げられる。 本年度は今のところ、移動制限が幾分緩和される見通しであることから、学会あるいは研究会への出席と研究報告の実施による出張旅費等の支出が見込まれる。また、論文投稿数も前年度以上に増え、それに伴い論文投稿費も増加する見通しである。交付金の繰越額はこうした使途に充てることを予定している。
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