最終年度の令和5年度は、これまで収集してきたテキストデータを用いた実証研究を中心に研究成果をまとめた。また、格付が重視する財務指標を相対化するために株式評価モデルとの比較を行うとともに、これまでの研究成果を踏まえた論点整理を行い、本研究課題終了後の研究進展に向けた課題を提示した。 まず実証研究では、18-21年の格付リリース3625本を対象としたテキスト分析を行い、わが国で活動する格付会社が現実に着目している財務指標を明らかにした。この結果を簡潔にまとめれば、①返済が必要な債務、②その返済原資を稼ぐ力、③稼ぐ力を高めるために取りうるリスクに対する耐久力の3点を表す財務指標が重視されていることが分かった。具体的には、有利子負債EBITDA倍率(①と②に関連)と自己資本比率(③に関連)が代表例である。加えて、信用力低下に直面した際は債務返済能力を慎重に測るため、資金流動性にも目を配っていることが明らかとなった。ちなみに、通説では代表的な安全性指標とされる流動比率や当座比率は、全く表れなかった。本研究ではこの理由として、両比率は短期間で大きく変動する性質があるためと考えたが、学術面、教育面からもう一歩踏み込んだ研究を行う価値があるかもしれない。 次に株式評価モデルとの比較に関しては、株式と債券はリスクとリターンの特性が違うため、当初は評価に用いる財務情報も大きく異なると予想していたが、実際は共通項が少なくないことが確認できた。このことは、会計情報の意思決定有用性を議論するに当たって株式投資家を念頭に置いたとしても、一定程度は社債投資家のニーズも視野に入れた議論が可能であることを示唆している。 この点、社債投資家のニーズを満たせない部分については、別途の手当てでカバーできるかもしれない。この方法について若干の考察を行い、今後の研究進展に向けた論点を提示して本研究課題を締め括った。
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