本研究の目的は,管理会計の新機能として,管理会計によるテンション・マネジメントが組織プロセスにおよぼす影響を経験的に探究することにあった。より具体的には,第1に,予算管理や業績評価に代表されるマネジメントコントロールを対象にテンションの観点から組織プロセスへの影響を調査し,第2に,同様に,原価企画などのコストマネジメントにおけるテンション・マネジメントの如何が組織プロセスへおよぼす影響についての実証的な解明を目的としていた。 特に最終年度は,製塩事業と醸造事業を営む小規模事業者を中心に訪問調査を実施した。その結果,同一地域における同様の事業においても,製造方法やマネジメントのあり方にはかなりの相違があり,そうした違いをもたらす要因として,創業以来の歴史や企業理念が大きく影響していることが分かった。 研究期間全体を通じて実施した研究成果としては,第1の目的について,東証一部上場企業への郵送質問票調査に基づき,予算厳格度,業績評価の主観性,環境不確実性の相互作用が財務業績におよぼす影響を分析した。その結果,不確実性の高い環境下では,予算厳格度を低め,業績評価の主観性を高めることが,財務業績(ROA(Return on Assets)や売上高成長率)を高めるという関係を明らかにした。第2の目的については,郵送質問票調査に基づく統計分析の結果,プロセス産業では挑戦的目標原価と部門間協働の相互作用が原価低減を促進することを示した。 国際的にも実証研究の少ない研究領域において,業績評価と原価企画という2つのテーマにおいて,実証的知見を得たことは国際的にも意義があるものと考えている。そのため,両論文とも英文で発表している。
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