研究課題/領域番号 |
19K02025
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
山田 康裕 立教大学, 経済学部, 教授 (20335160)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 純損益 / クリーン・サープラス |
研究実績の概要 |
国際会計基準審議会で進められている「基本財務諸表プロジェクト」において提案された純損益計算書が,以前のプロジェクトである「財務諸表の表示プロジェクト」といかなる点で異なり,またいかなる点で同じなのか。「財務諸表の表示プロジェクト」から「基本財務諸表プロジェクト」への議論の変遷を辿ることによって,「基本財務諸表プロジェクト」における純損益計算書の特徴や問題点を明らかにした。IASBにおける議論を見ると,純損益とその他の包括利益の区分およびリサイクリングについて概念的な検討を行うべきであるという利用者からの要請が頻繁にあったにもかかわらず,当該要請に応えたものにはなっていない。IASBは,何年にもわたって財務業績報告について議論してきたにもかかわらず広い支持を得られなかったと述べているが,かつての議論は表示問題に焦点が当てられており利用者が注目する認識・測定問題がおざなりにされていたと考えられ,IASBは支持が得られなかった理由を真摯に考える必要がある。なた財務業績は多面的であり一面的な区分は有用ではないとの国際会計基準審議会の主張に対しては,国際会計基準審議会はその他の包括利益の理解不足が原因であるとしているが,当該原因分析に誤りがある。また国際会計基準審議会は純損益計算書に新たな小計を設けることを一旦提案し,その後当該提案を取り下げたが,クリーン・サープラスについて論理的に考えるかぎり,取り下げは妥当なものと判断される。以上について,雑誌『會計』において公表した。さらに,その後の「財務諸表の表示プロジェクト」の議論の展開について考察を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍の影響により,当初予定していた海外調査などが一切行えず,延期するかたちで1年目,2年目と研究を進めてきたが,最終年度の3年目に至っても,海外調査を行うことはできずに終わった。そこで,研究期間を1年延長するとともに,当初の研究計画を大幅に修正して,国内で行える文献研究を中心に進めていくよう転換を図った。
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今後の研究の推進方策 |
国際会計基準審議会のオフィスに赴いての資料収集はかなわないものの,インターネット上等で公開されている情報(国際会計基準審議会のサイトから入手できるさまざまな情報)を利用して,文献研究を主体として考察を進め,本研究の完成を図るようにしたい。それにあたっては,昨年度の方針と同様,国際会計基準審議会で検討されている事項はかつての「業績報告プロジェックト」のときや概念フレームワークの改定のときとにおける議論と同様にみえるものの,はたしてそれは議論の堂々巡りにすぎないのか否かについて,同型化やデカップリングといった社会学や政治学の諸概念を援用しつつ,議論の収束がみえない背景を考察するという方向で研究を進めていくことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で海外調査を断念せざるを得なかったが,次年度は少なくとも国内での移動や容易にできるようになると思われるので,国内学会への参加を積極的に行うとともに,文献調査を順次進めていくようにしたい。
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