本研究課題の目的は、企業の社会・環境活動実績を含む非財務情報をKPIsとして報告することを目的とした統合報告を採用する企業が増えつつある中で、統合報告書内でKPIsとして報告される非財務情報が本当にSDGsに結びついているのか、また、どのような因果関係の帰結として株価上昇を生み出しているのか、という点に関する学術的研究、特に実証分析を実施することであった。 ただし、非財務情報開示に関する基準化・制度化に向けた世の中の動きは、本研究課題の研究期間内においても急速に進行した。。国際的な動きとしては、IFRS 財団が2021 年11 月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、気候変動開示基準委員会(CDSB) や価値報告財団(VRF)と統合したうえで、国際的な開示基準の策定を進めている。わが国においても、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の設立や、有価証券報告書における非財務情報の開示が始まるなどの動きが見られる。このような背景の下、本研究課題の研究対象を、統合報告による非財務情報の開示だけではなく、制度化・基準化の進む、より広い範囲での非財務情報の開示へと拡大することとした。 研究対象とする開示媒体は拡大したものの、開示の候補となり得る非財務情報のうち、どの項目を開示するかという論点について実証分析を用いて検討する、という本研究課題の趣旨に変更はない。最終的な成果として、研究代表者が、これまでの実証分析の知見を書籍にまとめた。『非財務情報の意思決定有用性 -情報利用者による企業価値とサステナビリティの評価-』というタイトルで、中央経済社より2023年6月に刊行したほか、同書籍の内容について、国内外の学会での研究報告および論文等として公表している。合わせて、非財務情報の発行体である企業や、その情報の保証業務を担う公認会計士等の実務界への講演やセミナーも実施している。
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