本年度(2021年度)は,監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)の早期適用事例の特徴とそれらから得られるインプリケーションを示したうえで,強制適用初年度の2021年3月期決算におけるKAMの全体像を明らかにした。 監査人は,KAMとして決定した事項について,関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で,KAMの内容,監査人がKAMであると決定した理由,および監査における監査人の対応を監査報告書に記載することが求められている(監査基準,七2)。2021年3月期の監査報告書では,監査における監査人の対応として,監査人がおこなった内部統制の評価についての記載がなされている事例がかなりの数あることを確認した。 また,KAMの区分の監査における監査人の対応の記載内容は,監査人が監査上とくに重要であると判断した事項に関連するものであることから,監査の期待ギャップの縮小と被監査会社の内部統制の不備是正(会計不正の未然防止)効果に貢献し得ることが期待できる。 これらの研究成果の一部は、「財務諸表監査の変革―KAMは日本の財務諸表監査を変えるか―」『経済論叢 ―徳賀芳弘教授退職記念號』(京都大学経済学会)第195巻第2号(2021年4月)および「会計時評:財務諸表監査の新展開」『企業会計』(中央経済社)第74巻第5号(2022年5月)にて公表している。 なお,新型コロナウイルス感染症感染拡大防止の観点から,本研究課題の申請時に予定していた公認会計士の方へのインタビュー調査等はできなかったが,その分,2020年3月期の早期適用事例および2021年3月期の強制適用初年度の事例を丁寧に分析することに注力することができた。
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