研究課題/領域番号 |
19K02036
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
五十嵐 泰正 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80451673)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市社会学 / 公共性 / 不動産 / コミュニティ / 民泊 / 上野 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究に先立つ研究課題か継続していた東京都台東区上野におけるビルオーナー・経営者ら、いわゆる「旦那衆」の地域意識の分析を進め、2019年12月に『上野新論―変わりゆく街、受け継がれる気質』(せりか書房)として発表した。また、この著作に関連するものとして、10月の日本都市学会にて口頭報告を行った。さらに、同著作が高く評価されたことは、国際シンポジウム「シンポジウム 東亰新論:オリンピックの後にあったもの」(2020年3月予定/中止)、地域社会学会大会シンポジウム(2020年5月予定/延期決定)、関東社会学会大会テーマ部会(2020年6月予定/延期決定)などでの招待講演・登壇につながったが、いずれもCOVID-19パンデミックの影響で中止ないしは延期となったことは残念である。 また、上野2丁目地区において、ビルオーナーたちの情報共有と課題発見を目的とした「池之端仲町かいわい 空きスペースミーティング」と、そこで企画された地域活性化イベント「アーツ&スナック運動」をファシリテートしている、東京大学都市デザイン研究室とも意見交換を行い、上野のビルオーナーたちの地域意識やテナント選定に係る理解を深めた。 一方、都市部における物件の活用法として急速に普及し、同時に極めて流動的かつ外部に対して不透明で空間の創出として地域での軋轢も生んでいる、民泊・ゲストハウスについて最新の国内外のサーベイや比較研究に関しての文献調査を進め、法制度や国際比較の視点から、2019年10月に経済理論学会問題別分科会にて口頭報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期間にわたる上野におけるフィールドワークや聞き取り、歴史的資料分析や補足的な計量調査を踏まえ、本研究でこれから発展させる視点を結論とした著書『上野新論-変わりゆく街、受け継がれる気質』をまとめ上げた成果が大きい。同書は、上野というきわめて個性的な特定の街のモノグラフでありながら、グローバル化による流動化と多様化が進む日本の諸都市への示唆に求む都市社会学の労作として高く評価されるとともに、朝日新聞、日本経済新聞、共同通信配信各地方紙、週刊読書人、図書新聞などに書評や著者インタビューが掲載され、同書刊行後それほどの時間が経ってないにもかかわらず、幅広い一般読者も獲得している。さらに、台東区の上野地区まちづくりビジョン会議の委員として同ビジョンの策定にあたったほか、副都心上野まちづくり協議会アドバイザーなどとして、同書にまとめられた研究成果は、上野地区での実践的なまちづくりに大いに生かされている。 また、上野を始めとした都市部の物件の空間利用として、ビルオーナー・物件所有者にとってもにわかに有力な選択肢となってきた民泊・ゲストハウスについて、国内外の事例・法制度の国際比較・地域との関係性・最新の計量データなどの観点で、幅広く文献調査を進めたことも、本研究の進展に大きな意義がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、都市部の物件の利用のあり方として特に注目している民泊・ゲストハウスについては、東京都台東区の住民を対象とした500~600人規模のインターネット委託調査を行い、職業、不動産所有状況、民泊・ゲストハウス利用経験の有無、居住地域(住宅地/繁華街)、居住歴などが、地域の民泊・ゲストハウスに向けられる意識との間に、いかなる相関があるか検討する。 また、ビルオーナーの意識調査については、アドバイザーを務めている副都心まちづくり協議会との協働のもと、今年度は特に上野地区のメインストリートである中央通りに焦点をあて、ビルオーナーのネットワーキングをはかりながら、ビルオーナーの地域意識・テナント選定意識の聞き取り調査およびテナントの入居状況の悉皆調査を行う。 ただ、本来今年度に予定していた、国内外の事例を比較検討する計画は、COVID-19パンデミックの影響で予定通り遂行できないことが懸念される。特に、増大する民泊が家賃の高騰をもたらしたことで、物件の民泊転用やホテル建設に規制を導入しているスペイン・バルセロナ市での調査を予定していたが、2020年中の遂行は困難と思われる。 また、台東区における民泊・ゲストハウスに係る計量調査やビルオーナーに対する聞き取り調査に関しても、インバウンド観光客の事実上の消滅と緊急事態宣言の発令という事態を受けて、民泊・観光や不動産経営に関する意識が大きく影響されていることが予想される。2020年度という危機的な時期に調査を遂行するにあたり、そうした影響を強く織り込んだ形で問題設定を再構築し、パンデミック期/ポストパンデミック期の都市のあり方の構造変容を見据えた調査となるようにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、インターネット委託による計量調査及び海外調査(スペイン・バルセロナ市)を本研究申請当初より計画していたところ、20万円ほどの減額があったため、本研究遂行に不可欠なこの2つの調査を遂行するために、2019年度の支出をできる限り絞って2020年度に繰り越しを行った。 ただし、COVID-19のパンデミック発生に伴い、2020年中の海外調査は不可能な可能性が見込まれ、その場合、海外調査は2021年度に持ち越すものとし、2020年度も一定の繰越額を生じさせることを検討している。
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