本研究の目的の一つである、東京都台東区における雑居ビルやマンションの民泊化への懸念とオーバーツーリズム意識については、昨年度までの成果を引き継ぎ、『地域社会学会年報』第33巻所収論文として論文化したことで一定の達成をなした。 一方、ビルオーナーの街への志向性とテナント選定のあり方の検討については、新型コロナウイルス感染症流行の影響と制約を引き続き大きく受けた。上野まちづくり協議会や池之端仲町商店会・上野二丁目仲町通り商店会との連携のもと、ビルオーナーへの聞き取り調査を進めたが、緊急事態宣言等により飲食店のテナントを中心に通常の営業活動ができず、かつ規制に伴う協力金に大きく依存して正常な市場が一時的に成立していない状況であり、上記の問題設定を調査するのに適切な時期とは言い難かった。また、高齢者層が多いビルオーナー層にはリモート調査が難しく、予定していたグループインタビューを緊急事態宣言により本研究期間中の実施は断念しなければならないケースも発生した。そうした中、長年にわたってビルオーナー・地権者との信頼関係を構築し、コロナ禍においても引き続きリノベーションまちづくりを推進している北九州家守舎での視察は大きな示唆に富んだ。 一方、コロナ禍における国土交通省の道路占用許可の特例や、その受け皿としての歩行者利便増進道路(ほこみち)の開始に伴い、上野のビルオーナー層においても、より積極的な路上の利活用を地域の価値向上につなげていこうとする機運が高まっていることを目の当たりにした。21年度に甲信地域のほこみち先進事例の視察等を踏まえて練り上げた研究関心をもとに、本研究代表者は基盤C研究課題「道路利活用を事例としたタクティカル・アーバニズムの社会学的な再検討」を2022年度から開始することになっており、その中で本研究において未達成だった調査・分析も引き続き継続していきたいと考えている。
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