研究課題/領域番号 |
19K02037
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
佐藤 雅浩 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (50708328)
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研究分担者 |
牧野 智和 大妻女子大学, 人間関係学部, 准教授 (00508244)
櫛原 克哉 東京通信大学, 情報マネジメント学部, 助教 (00814964)
山田 理絵 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (70837335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療化 / 心理学化 |
研究実績の概要 |
研究の3年目にあたる本年度は、昨年度に引き続き研究プロジェクト全体にかかわる研究活動と、各研究メンバーの役割分担に沿った調査研究を並行しておこなった。前者に関しては、昨年度に実施した「健康と生活に関する意識調査」によって得られた社会調査データの統計的分析を中心に、研究活動を行った。その結果、現代社会における医療化/心理学化については、これらの現象に親和的である個人の属性に一定の傾向がみられること、また医療化と心理学化それぞれについては、異なる属性がその親和性に関与していることなどが明らかになった。次に後者の各メンバーの調査研究としては、研究代表者の佐藤は上記の意識調査の分析を主導して行うと同時に、近代日本社会における精神医学的知識の普及過程について、各種の精神疾患概念を事例に、研究成果の書籍における発表や学会報告を行った。また櫛原は、精神科診療所および医療スタッフと患者を対象にこれまで行ってきた調査から得られた知見をまとめ、次年度以降に著書として刊行する準備を整えた。そして牧野は、社会の心理学化に関する今日的事例の一つといえる「ワークショップ/ファシリテーション」に関する学際的知見を集めて分析し、共著として『ファシリテーションとは何か』を刊行した。また山田は、摂食障害の経験に関する質的研究を進め、その一部を論文としてまとめると同時に、2019年より参加している精神障害を持つ方々の家族のニーズに関する研究(質問紙調査、インタビュー調査)を完了させ、その分析報告書を作成した。加えて、薬物事犯に関する研究(刑の一部執行猶予制度実施後の更生保護施設の役割)において、データ収集の役割の一部を担った。最後に研究協力者の酒井は、日本の精神医学・臨床心理学の文献を渉猟する一方で、心理学化/医療化の潮流と親和性があるとされる新自由主義的価値観に関する社会意識について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階の計画において、本年度は研究の最終年度にあたり、複数の事例研究から得られた経験的データを比較しつつ分析し、現代社会において進展する「医療化」と「心理学化」に関する新たな知見を導出する予定となっていた。しかし昨年度から引き続き、新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴い、当初予定していた対面での調査など、実施が困難になった活動が存在した。そのため、研究期間を1年延長し、今年度はこれまで得られた経験的データの分析や、研究に参加している構成員ごとの調査研究活動に専念することとした。その結果、上記「研究実績の概要」で述べたように、今年度は研究代表者・研究分担者・研究協力者それぞれが、定められた役割分担にそって各領域の調査研究を実施し、論文や著書、学会報告等の形でその成果を公表することができた。これらの成果はいずれも、現代社会における医療化/心理学化の実情を経験的データから分析したものであり、日本における同現象に対する社会学的知見の蓄積に寄与したということができる。また研究プロジェクト全体としては、前年度に実施した社会調査データの統計的分析を実施し、社会の医療化/心理学化に関する実証的な研究を進展させることができた。この点はとくに、これまで理論的な水準で議論されることが多かった当該の現象について、こうした現象に対して親和的であり、その推進要因となり得るような個人の特性を明らかにできた点に、学術的意義があると考えられる。またこれまでは個別の研究にとどまることが多かった「医療化」と「心理学化」という社会の趨勢について、同一の対象者における親和性の異同という観点から比較考察することができた点も、これまでの研究には見られないオリジナリティがあったと思われる。以上の諸点から、当初予定されていた研究活動は一部達成できなかったものの、おおむね順調に研究は進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
前項で述べたとおり、昨年度から本年度にかけては新型コロナウィルス感染症の蔓延により一部の研究活動が制限された影響から、申請当初に予定していた活動を延期せざるを得ない状況が発生した。今後の研究活動の推進方策としては、昨年度に積み残した課題を可能な限り遂行すると同時に、申請当初に予定されていた最終年度の課題を実践することに注力する。各メンバーの研究活動の予定としては、以下の点を予定している。まず佐藤は、これまで3年間の研究によって得られた経験的データをもとに理論的検討を行い、現代社会における医療化/心理学化の実態について、それぞれの問題領域における推進要因や社会的背景について考察を加える。また研究分担者の櫛原は、これまでの調査研究を継続すると同時に、東京都多摩地域の精神科病院と精神障害のピアスタッフを対象とした調査を行い、随時研究発表を行っていく予定である。また同じく研究分担者の牧野は、昨年度から引き続き、まちづくりワークショップの展開を諸資料から分析し、整理した論考を発表する。同じく山田は、これまで行ってきた摂食障害の経験に関する質的研究をさらに深化させ、現代社会の医療化/心理学化に関する研究結果を各種媒体で報告する予定である。さらに研究協力者の酒井は、心理専門職制度化の中心的アクターとして従来スポットがあてられてきた心理学者の河合隼雄についてその著作等を分析し、彼の理論家・心理臨床家としての側面にも注目しつつ、多面的に知識社会学的探究をおこなう予定である。これら各メンバーの活動を踏まえたうえで、研究プロジェクト全体としては、これまで行われた複数の事例研究から得られたデータを比較しつつ分析し、現代社会において進展する「医療化」と「心理学化」に関する新たな知見を、理論的・経験的な水準双方で集約することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度(2021年度)は、昨年度に引き続き新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い、当初予定していた対面での調査や研究会などの中で、実施が困難になった活動が存在した。そのため、当初予算に計上していた調査関係費用や旅費・謝金等の費用なかで、支出が困難となった項目が発生した。また研究期間を1年間延長したため、翌年度(2022年度)に支出する予定の調査費用等を確保する必要が生じた。次年度使用額が生じた理由は上記の通りである。当該年度の未使用額については、翌年度(2022年度)に繰り越し、感染状況の推移を見ながら、これまでの年度に予定通り実施できなかった調査研究活動を遂行する目的において使用する予定である。
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