本研究は、同和問題解決のための特別対策としての特別措置法が2002年に期限切れを迎え、「部落民」としての肯定的な社会的アイデンティティを形成するための制度的な支えが縮小・解体傾向にあるなかで、それでもなお肯定的なアイデンティティが形成されていく過程を、被差別部落出身の若者への生活史聞き取り調査を実施することで明らかにし、それを可能にする要因群を析出することを目的としている。「日本社会」における典型的なマイノリティである「部落民」を事例とした本研究は、現代社会を構成する多様なマイノリティの人びとが、肯定的な社会的アイデンティティを形成していくための戦略や社会運動、さらにはマイノリティ政策のあり方について、大きな示唆を与えると考えられる。 本年度は、昨年度までに実施したインタビューデータのすべての文字おこしを終え、その整理を行った。また、被差別部落の若者の肯定的なアイデンティティ形成のために重要な役割を果たしてきた全国集会に参加し、現代におけるその意味を検討した。さらに、進学・就職など進路を切り開くためのペーパーテストで把握できるいわゆる「受験学力」だけではなく、部落差別と向き合い、その克服を目指す「解放の学力」形成のために取り組まれてきた地域教育の取り組みなどについて、大阪府内2ヶ所、滋賀県内1ヶ所をフィールドとしてその現代的あり方についての研究を進めた。 ほか、インタビューによって把握した多くの若者たちが経験していたマイクロアグレッションについても検討を行い、その一端を明らかにすることができた。 これらに加え、韓国の衡平運動100年を記念して開催された学術集会に参加し、被差別部落の若者世代の活躍に言及した「日本社会における部落差別と全国水平社創立の意義」と題した報告を行い、国際的に研究成果を発表することができた。
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