研究課題/領域番号 |
19K02050
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
大友 由紀子 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (00286121)
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研究分担者 |
中道 仁美 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (30254725)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 女性農業経営主 / 農家継承 / 土地所有 / ジェンダー / オーストリア / 一子相続法 / 農場譲渡契約 |
研究実績の概要 |
オーストリアの家族農業では、女性農業経営主が3割以上を占め、その約9割が農場を所有する。オーストリアの先進事例より、家族農業に強固なジェンダー非対称性を組み替えるための道筋を探る実証研究である。 2019年8月26-30日、オーストリア連邦機関農業経済・農山村調査研究所(BAB)とオーストリア中央農業会議所(LK.Oesterreich)全国女性農業者組織を介し、低地オーストリア農業会議所と高地オーストリア農業会議所にて専門家へのヒアリングと資料調査を実施し、農場相続と女性農業経営主の農場所有に関する制度を把握した。 オーストリアでは家族法・相続法とは別に農場相続に関する特則「一子相続法」を定め、家族農業の世襲を保護している。一般に農場相続は、親が老齢年金受給年齢に達する時、公証人または弁護士を介し、親子で農場譲渡契約を締結する。親の居住権を土地登記簿に記し、全ての付属品を含む農場全体が子に引き渡される。契約書には親の老後の生活保障をはじめ親夫婦と子夫婦の居住形態等、取決めを記載する。家族法・相続法では均分相続が定められているため、農場相続した子は相続を譲歩する兄弟姉妹に対し、農場の承継価額に応じた補償をしなければならない。 この農場譲渡契約のタイミング、相続人の選定と相続譲歩に対する補償、親の老後の生活保障や居住条件等に関し、農業会議所が地域の慣行に即したガイドブックを発行し、講習会や個別相談を実施している。また、女性農業経営主の農場所有には単独所有と夫婦共有とがあるが、離婚率の上昇もあって夫婦共有は推奨されなくなっていた。 以上の成果を“The position of women in the farm transfer process in Austria“として、2020年7月開催予定の第15回世界農村社会学会(IRSA)ケアンズ大会に報告エントリーした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、予備調査として2019年8月末に農業会議所でヒアリングと資料調査を行い、第一次調査として2020年3月末に女性農業経営主約10名へのインタビュー調査を実施し、2020年7月8-12日に開催される第15回世界農村社会学会ケアンズ大会にて研究報告。第二次調査として2021年3月末に女性農業経営主の単独所有と夫婦共同所有を比較調査し、2021年夏季の第29回ヨーロッパ農村社会学会(ESRS2021)にて研究報告し、続けて補充調査をして3年間の研究を総括する予定だった。 2019年8月末の予備調査、9月末の第15回世界農村社会学会ケアンズ大会へのアブストラクト提出と2020年1月末の研究報告採択決定までは順調だった。続けて、2020年3月20日-4月1日に第一次調査を実施すべく、調査対象者への依頼状と調査票を作成し、研究倫理審査を経たものの、新型コロナウイルス感染拡大によって渡航不可能となった。さらに3月19日には、オーストラリアの海外からの入国禁止措置によって、第15回世界農村社会学会ケアンズ大会も延期が決定した。 コロナ禍の収束を待たないと、現地調査や国際会議での研究報告が出来ない状況ではあるが、すでに予備調査にて、低地オーストリア農業会議所と高地オーストリア農業会議所の農場譲渡に関する指導書や個別事例の新聞記事を入手しており、2020年1月にはそれらを読み合わせ、第一次調査にむけた準備も出来ていた。また、オーストリア連邦機関農業経済・農山村調査研究所では、2020年3月24日に女性農業経営主の土地所有に関する墺日ワークショップを企画し、開催通知を発送するところまで準備していた。幸いオーストリアは、欧州でもコロナ禍からの回復が早く、日本からの入国制限が解除され次第、調査対象者の選定に取り掛かれる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年7月8-12日に開催予定だった第15回世界農村社会学会ケアンズ大会は延期になったが、2021年7月6-10日に開催されることになった。決定していたセッションやアブストラクトはそのまま持ち越されるため、そこでの研究報告にむけて、延期しているオーストリアでの現地調査を実施する。 オーストリアは、欧州でもいち早く新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めたことから、すでに規制緩和も進められており、当初は2020年3月20日-4月1日に計画していた第一次調査も、8月末から9月上旬には実施できる見込みである。 現地の研究協力者、オーストリア連邦機関農業経済・農山村調査研究所研究員Oedl-Wieserは、2008年オーストリア全国女性農業主実態調査の10年後の追跡調査に着手しており、その結果をもとに本研究の調査対象者を選定する計画である。コロナ禍によってこの追跡調査も中断していたが、7月には女性農業経営主10名の選定に着手できる見込みである。 2019年8月予備調査の結果は、2020年10月31日・11月1日に松山大学で開催される第93回日本社会学会大会、または、11月21日・22日に明治大学駿河台キャンパスで開催される第68回日本村落研究学会大会にて研究報告する。 2021年3月末には、第二次調査を実施する。女性農業経営主約10名へのインタビュー調査にむけて、2021年1月から2月にかけて調査依頼状と調査票を準備し、あわせて研究倫理審査資料を整える。また、オーストリア連邦機関農業経済・農山村調査研究所で2020年3月24日に開催予定だった女性農業経営主の土地所有に関する墺日ワークショップを2021年3月の第二次調査期間中に開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、3月20日-4月1日に予定していた海外調査が延期になり、そのため次年度繰越が生じた。また、2020年7月8-12日に開催予定だった第15回世界農村社会学会ケアンズ大会も、新型コロナウイルス感染拡大によるオーストラリアの海外からの入国禁止措置により、3月19日に1年延期が決まり、2020年3月30日入金期限だった学会参加費695ASD(約52,125円)×3名分(研究代表者、研究分担者、研究協力者)が次年度繰越になった。
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