研究課題/領域番号 |
19K02050
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
大友 由紀子 十文字学園女子大学, 社会情報デザイン学部, 教授 (00286121)
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研究分担者 |
中道 仁美 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (30254725)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 女性農業者 / 農家継承 / 土地所有 / ジェンダー / オーストリア / 一子相続法 / 農場譲渡契約 |
研究実績の概要 |
男子優先の世代継承を伝統とする家族農業であっても、オーストリアでは女性農業経営主が3割以上を占め、その約90%が農場を所有する。本研究では、オーストリアの先進事例から、家族農業に強固なジェンダー非対称性を組み替えるための筋道を探る。 当初計画では、2020年3月に1次調査、2020年7月第15回世界農村社会学会(IRSA)ケアンズ大会での研究発表、2021年3月2次調査を予定していたが、COVID-19パンデミックによって渡航できなくなった。そこで、2019年8月の予備調査で収集した文献資料の独文和訳に取り組み、「オーストリアの農場相続における女性の地位」として2020年10月31日に第93回日本社会学会で報告した。 オーストリア農業会議所が発行するハンドブック「農場譲渡/承継」、「農業における女性の権利」、「農林業における農場譲渡」等で、①世襲農場の安定的な継承のための「一子相続法」、「チロル農場法」および「ケルンテン世襲農場法」、②農場譲渡/承継のタイミング、③農場譲渡契約(契約の目的、譲渡者の老後保障、承継譲歩者への遺産分与、承継者の単独所有か夫婦共同所有か)について整理し、さらに農業会議所女性農業者組織が1976年から10年毎に実施している「オーストリア女性農業者実態調査」2016年調査データより、④女性農業者の農場所有、⑤多世代経営の世代関係、⑥女性農業者の職業教育・訓練について、地域性と時代変化を確認した。これより、女性は世襲農場の後継者と結婚し、夫婦共同で農場承継する代わりに、義父母との同居や介護の義務が生じたこと。農業者の老齢年金や介護手当が普及して老親扶養の負担はなくなり、離婚の増加もあって、農場の夫婦共同所有は避けられるようになったこと。女性でも農林業の職業教育・訓練を受けることで、世襲農場を承継する蓋然性が高まることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年8月の予備調査で収集した文献資料をもとに研究発表はできたが、COVID-19パンデミックが長期化して海外調査に出かけられず、参加予定の第15回IRSAケアンズ大会や第4回ドイツ語圏における農村女性の国際会議は開催が延期され、研究に遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
オーストリアでのCOVID-19感染拡大は収束に向かっているが、まだ、しばらく渡航は困難な状況である。そのため、まずは、前年度の研究成果を論文にして学術雑誌への投稿原稿を仕上げる(4月~6月)。 次いで、その成果をもとに、現地調査を補完するためのオンライン調査に取りかかる。研究協力者のOedl-Wieser, T.(オーストリア連邦中山間条件不利地域研究所)の助言を受けながらドイツ語の調査票を完成させ(7月末)、Glatzl, M.(オーストリア農業会議所女性農業者組織)に調査対象者の選定を依頼する(8月上旬)。8月下旬から9月上旬にかけて、女性農場所有者10名(単独所有、夫婦共同所有)を対象にWEB調査とオンラインインタビューを実施し、12月までにデータ整理する。 農閑期にあたる12月中旬から2月にかけて、7日間の現地調査を実施したい。現地調査によって、世襲農場を相続した女性農業者たちの家族生活と農業経営を確認することで、家族農業に強固なジェンダー非対称性を組み替えるための条件を把握する。 オンライン調査と現地調査のデータを総合的に分析し、研究発表が決定している第15回IRSAケアンズ大会(2020年7月から2022年7月に延期)のための英文論文を仕上げる(3月)。 また合わせて、2021年1月の予定が約1年間延期されている第4回ドイツ語圏における農村女性の国際会議ベルン大会に参加し、農村女性リーダーやステークホルダーから最新の情報を入手し、オーストリアの調査事例に対する評価を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、オーストリアにおける女性農業者の農家継承と土地所有に関する実証研究であり、主として海外調査のために応募したものである。ところが、COVID-19パンデミックが長期化し、渡航が不可能なことから次年度使用が生じた。現地調査を補完するためのオンライン調査も計画したが、現地の社会情勢から実施を見送った。 次年度も終息は不透明だが、8月下旬から9月上旬にかけてオンライン調査を実施し、農閑期の12月中旬から2月にかけて1週間の現地調査を実施する計画である。現地調査にかかる旅費や人件費・謝金のほか、オンライン調査のための翻訳・校閲作業ならびに音声データの文字起こしに人件費・謝金が必要なため、これに使用する。 また、2021年1月20-22日にスイス・ベルン大学で予定されていた第4回ドイツ語圏における農村女性の国際会議が約1年延期して開催されるため、このための参加費と旅費に使用する。 すでに研究発表が決定している第15回IRSAケアンズ大会は、2020年7月開催の予定が2021年7月に延期されたが、2022年7月に再延期されている。年度を越えるため、研究期間の延長を計画している。
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