欧州アルプス山系に位置するオーストリアでは小規模な家族農業が営まれ、男子優先の伝統から女子による継承は例外的だった。しかし現在では、農業経営主に占める女性の割合は31%と高く、女性農業者の64%が農場を所有する。女性農業者の経営参画が進むオーストリアの事例から、家族農業に強固なジェンダー非対称性を組み替えるための道筋を探った。 2019年8月末の予備調査で入手した文献から、以下の知見を得た。家族法・相続法では均分相続だが、農場相続には一括相続の特則を定め、農場経営の分割を極力禁止している。親の老齢年金受給に際して親子間で農場譲渡契約を結び、その時、後継者に配偶者があれば、農場を夫婦共同所有にしてもよい。しかし近年では、離婚や事実婚が増え、農業者の利益団体である農業会議所では、後継者とその配偶者による農場共同所有を推奨しなくなった。 こうした動向にもかかわらず、夫婦共同農場所有を可能にする条件を探るため、2022年3月末の第1次調査に続けて、5月初旬に第2次調査を実施した。世襲農場の一子相続法が適用され、夫婦共同農場所有の割合が高いオーバーエスターライヒ州とニーダーエスターライヒ州にて、14名の女性農業者に半構造化インタビューを実施した。その結果、対象者14名のうち7名は女性後継者で、農業経営主であり、夫と農場を共同所有していた。他の7名は農業後継者の妻で、うち6名は夫婦共同農業経営主だったが、夫婦共同農場所有者は3名だけだった。この3名は農業の専門資格を取得し、農業資金を調達し、農業経営に貢献していた。女性後継者は社会化の過程で農業教育を受けていたが、農業後継者の妻には、義母との緊張、義父母の離婚に対する懸念、彼女たちの農場所有に対する関心の低さなどから、農場の所有権を取得するには困難がある。オーストリアでも家族農業におけるジェンダー平等には道のりがあることがわかった。
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