本研究は、20世紀初頭からリベラルな市民権に立脚する法制度の整備と並行して、そのモデルから「ジプシー」を例外化する4つの法制度を制定してきたフランスにリベラル・ナショナリズムの原型を見て、「ジプシー」例外化の正当化の理由とこの法制度がフランス社会で受け入れられていった過程を明らかにする。 検討項目は、4つの法制度を素材として、A.立法過程の検討による「ジプシー」例外化の理由の解明、B.制度面・運用面での「ジプシー」の権利制限の実態解明、C.聞き取り調査等による法制度の解釈・実行・受容の実態解明である。A.~C.を解明することで、リベラルな市民権モデルへの収斂の中の排外主義の興隆と定着の理由を明らかにするとともに、市民権回復の可能性と課題を提示することを目的とする。 研究代表者は、上記A.のためにフランスの研究書・図書館で日本では入手が困難な文献を収集した。そして、その検討により、19世紀半に存在した既存の浮浪生活者・物乞いに対する処罰法制では不十分との認識が強まったこと、移動生活を送る者全体を規制すると行商人までも含めてしまい、「人種的性質を帯びるノマド」という括り方で「ジプシー」を区別するようになったこと、自治体独自の行政的規制から自治体当局や地方選出国会議員の意見を受けた国レベルでの法律による規制へと展開したこと、その過程で地方の声を受けて規制措置が厳格になっていったことが明らかとなった。 研究分担者は、上記B.C.を中心として、現地での図書等の資料収集に加え、移動生活者/ジプシー当事者、移動生活者/ジプシー研究や支援活動を行う人々を対象とした聞き取り調査を実施した。それにより、コロナ禍での移動の制限が移動生活者/ジプシー共同体に及ぼした影響や多数派社会との緊張関係の高まり、深刻化する居住隔離、および市民社会参加の現状に関する情報を入手し、検討を進めることができた。
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