研究課題/領域番号 |
19K02058
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
酒井 千絵 関西大学, 社会学部, 教授 (30510680)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジェンダー / 専門職 / 女性研究者 |
研究実績の概要 |
2022年度は、引き続きコロナ禍で国外研究機関に訪問できず、その結果研究計画の主要な内容である20世紀前半の社会学史に関わる研究を十分に進めることができなかった。それに代わって、現代日本社会における専門職女性の経験を調査、分析する作業を進めた。2022年秋には、広島大学ダイバーシティ研究センターと連携し、製造業企業の従業員11名に聞き取り調査を行った。女性が出産や育児を経て働き方をどのように変えてきたのか、男性が管理的・指導的地位の大半を占める組織で、育児・介護負担を主に負担する女性の業績を正当に評価することを阻害するのは何か、という観点から、2021年度までの聞き取りデータと合わせた50件あまりのライフストーリーを分析した。また、日本人からの海外移住経験の中で、ジェンダーが移住の動機や経験に相違をもたらしていること、国際移動の女性化という観点が、女性の社会科学研究者によってもたらされてきたことについて、先行研究や過去の調査結果をまとめ、論文を執筆した。この論文は、Brill社から出版された書籍、Expatriation and Migration: Two Faces of the Same Coinに掲載された。これらの研究実績は、当初の研究計画から逸脱しているようにも見えるが、以下2点の基本的な問題意識を共有している。1点は、ジェンダーと就労やライフスタイル選択の関わりである。女性は男性と同等、あるいはそれ以上の教育を受けても、職業機会や経済的な安定については男性ほど恵まれているわけではない。女性がこうした問題に対し、どのように認識し戦略をとってきたのだろうか。第2点は、専門家としての女性研究者の視点である。女性研究者が関わることで、これまでの研究関心は議論はどのような影響を受けるのだろうか。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年以降、新形コロナウイルスの影響で国外渡航が困難になったため、本調査課題で当初予定していたシカゴでの調査研究の遂行は計画の変更を余儀なくされた。2022年度も海外渡航制限が少しずつ緩和されたが、シカゴへの渡航は実現できず、新規の資料を収集することが出来なかった。代わって現代日本のジェンダー関係が、専門技術職の働き方やキャリアにどのような影響を及ぼしてきたのか、また女性研究者が積極的に議論や調査に関わることで、この問題に対する解釈や問題意識はどのように変化してきたのかについて、調査と分析を行ったが、2022年度中には論文や研究報告としてかたちにすることが出来なかった。これらについては、2023年度中に調査や研究業績の発表を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
パンデミックが修了した2023年度は、これまで行えなかったシカゴを含むアメリカでの調査と資料収集を行い、これまでに収集した資料と合わせて分析を進めたい。20世紀シカゴ学派と女性研究者の状況については、まず資料とその解説を公表するウェブサイトの作成を計画している。また、2022年度までに行った現代日本の事例について、国内、国外の学会で報告するとともに、論文執筆、公表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新形コロナウイルスのパンデミックによる渡航制限で、当初予定していた海外渡航が3年間にわたって難しい状態となり、予算の多くを海外渡航・滞在費用としていた本研究では、予算を予定通り消化することが不可能だった。そのため、研究機関を延長した上で、2023年度中に調査研究及び学会報告等での海外渡航に、次年度使用額を有効活用する予定である。まず、2022年度に進めた女性専門職が育児負担とキャリア構築をどのように理解しているのかについて、国内および国際学会で1度ずつ発表を行い、その後国際誌に投稿予定である。また、シカゴを中心にアメリカでの文献調査を予定している。
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