研究課題/領域番号 |
19K02061
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
立石 裕二 関西学院大学, 社会学部, 教授 (00546765)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不確実性 / 不定性 / アクターネットワーク理論 / 科学社会学 / 専門家 / 気候変動 / 再生紙 |
研究実績の概要 |
科学・技術がかかわる領域では、当初は挑戦的な目標が掲げられるものの、やがてその達成が困難だとわかる場合が少なくない。「当初の予想どおりには進まない」という不確実性(不定性)に対して、関係するアクターはどのように向き合っているか。環境対策における目標設定とその再調整の過程を分析することが本研究の目的である。2021年度は大きく3つのアプローチから研究を進めた。 1)分析視角としてのアクターネットワーク理論に関する検討。アクターネットワーク理論の主唱者の一人であるB・ラトゥールの主著『ラボラトリー・ライフ:科学的事実の構築』について、監訳者の一人として翻訳を出版することができた。 また、科学技術が抱える不定性について先行研究のレビューをおこない、その成果の一部を書籍『病と健康をめぐるせめぎあい : コンテステーションの医療社会学』の1章、および2022年度刊行予定の『環境社会学事典』の項目として書き上げることができた。 2)気候変動とエネルギー問題に関する事例研究。エネルギー問題の文脈における「クリーン」という言葉の使われ方に注目して新聞記事の分析を行った。太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電、核融合、燃料電池、「クリーン・コール」など、さまざまな代替エネルギーの選択肢が「クリーン」という言葉を冠して語られてきたことが明らかになった。研究成果の一部は書籍のコラムとして2022年度に刊行される予定である。 3)「再生紙」に関する事例研究。2010年代に入ってからの古紙・再生紙をめぐる動向について、とくにグリーン購入の制度動向、古紙パルプと純パルプの環境負荷に関するLCA(ライフサイクルアセスメント)研究の動向、OA用紙の輸入状況、森林認証パルプの利用状況に注目して、資料収集と分析をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度から継続して取り組んできた『ラボラトリー・ライフ:科学的事実の構築』の翻訳について、無事に刊行することができた。 また、エネルギー問題の事例研究、再生紙の事例研究についても、資料収集と分析を順調に進めることができた。いずれの事例についても原稿の執筆を進めており、2022年度中に書籍の一部として刊行される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、以下の3つに重点をおいて研究を進めていく予定である。 1)再生紙に関する事例研究。森林保護やゴミ処分などが複合的にかかわる古紙リサイクルの問題が、CO2排出量という単一の指標へとシンプル化されて議論されがちである点に注目する。執筆中の原稿を完成させ、2022年度中に刊行する予定である。 2)社会の変化を捉える枠組みという観点から、アクターネットワーク理論について理論的検討をおこなう。これまでの研究成果を整理して、2022年度中に論文を書き上げる予定である。 3)エネルギー問題に関する事例研究。エネルギーに関する新技術の研究開発は、時間面でも費用面でも巨大なプロジェクトになりやすい。挑戦的な(実現の見通しが立ちにくい)課題が多く、研究開発・実用化に長い時間がかかる中で、当初掲げた目標と実態とのギャップが生じがちである。また、エネルギー問題への社会的関心はつねに高く、関係する専門領域が幅広いため、研究費獲得の方策として持ち出されやすい側面もある。エネルギー問題における目標設定と実態とのギャップについて、研究代表者が以前から研究してきた原子力・放射線の事例を含めて分析していく。2022年度後半に学会発表を行い、並行して論文の執筆も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、2021年度には学会出張および調査のための出張を行わなかった。2022年度には多くの学会大会が対面開催になる見込みであり、研究代表者が主催・共催する研究会への研究者の招聘、学会発表のための出張、資料収集・インタビューのための出張等を目的として使用していく予定である。
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