研究課題/領域番号 |
19K02063
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
江口 千代 広島国際大学, 看護学部, 准教授 (10527732)
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研究分担者 |
橋本 清勇 広島国際大学, 看護学部, 准教授 (50273470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軍港都市 / 地域子育て / 口述史 / ライフストーリー / 都市・生活空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、軍港都市「呉」を対象とし、地域住民の口述史と子育てに影響した生活空間の関連の解析から軍港都市が築いた地域子育ての構造を解明することである。2019年度は、(1)市史や歴史的資料などの文献で、軍港都市から近代都市に変遷した地域の特殊性を明確化すること(2)口述史、特に戦前・戦後の子ども時代を生き抜いた高齢者のライフストーリーを江口・桜井で収集し、自治体関係者の中で語り継がれている伝承を江口が収集した。これらの語りのデータを紐解き、当時の子育て環境や地域の特徴を明確化することに主軸をおいた。 (1)については小さな漁村が軍港都市として発展していく成り立ちを市史や文献資料、記念館、資料館、海事歴史科学館などの協力を得ながら、残存する建物や土地の形状、軍港としての軌跡を江口・橋本・桜井で調査し、地域の変容からその特殊性を抽出した。 (2)については、軍港都市に生まれ育ち、その地域で現在も生活している高齢者を中心に、子ども時代当時の環境や状況など、戦前・戦後に実際に体験した語りを収集し、おおむね16名の高齢者に1回目のライフストーリーインタビューを実施した。これらのインタビューは調査者が中心となり、すべての逐語起こしを行いトランスクリプトデータとして作成した。高齢者のインタビューでは、海軍によって発展してきた「軍港都市」の様相や物資の変遷、建物の変遷、多くの人々の出入りが繰り返された変遷、そして家族や他者との関わりが語られている。また、保育・都市計画・子育て支援・経済・市史編纂など様々な分野での自治体関係者に語りつがれる伝承を調査し、残存する歴史的資料との比較検討を試みた。これらのデータをもとに、次年度は高齢者のライフストーリーを中心に分析し、変遷していく時代の中での子育て環境や都市・生活空間のありようを分析する中からそれらの関連性に迫ることをめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自治体各部署の協力や、地域の高齢者で構成されるボランティア団体の協力のもと、市史や歴史的資料の収集、また1回目の高齢者へのインタビューがおおむね終了したことが計画を順調に進展させたと考えられる。市史や歴史的資料の収集では、呉市の市史編纂室の協力、地形図・都市の変遷資料は都市計画課の協力、子育て環境の変遷については、子育て支援課の協力など多くの協力を自治体関係者から得た。1回目の高齢者へのライフストーリーインタビューでは、地域を語り継ぐ高齢者ボランティア団体の中から、戦前・戦後を通して呉で生活を営んだ高齢者の語りを桜井・江口が中心となり聞き取った。調査へ参加した研究参加者は、参加条件をみたした16名の高齢者から構成された。そしてこれが大きな調査データとなっている。またその語りをもとに、変遷していった地域を桜井・江口・橋本で実際に歩き、地域の状況を知る住民が語る話も周辺調査として聞き取ることができた。その中で得られた語りは今後子育て環境を知る上で重要な手がかりとなる可能性がある。こうした研究の遂行が計画をおおむね順調に進捗させた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ライフストーリーインタビューの分析を軸として、以下の計画で進める。 (1) 高齢者一人一人のライフストーリーインタビューを丁寧に分析し、語りの中でてくる建築・都市生活空間のありようを地図上で照らし合わせる。 (2) 高齢者一人一人のライフストーリーインタビューの語りの中で、不足の語りあるいは掘り下げたい語りがあれば、語り手を選定してより深いライフストーリーが得られるように進めていく。 (3) 計画書の分析枠組みに沿って、語りの内容を地域コミュニティなどの人との関わりや働き(ソフト面)、空間システムならびに物質面など有形の働き(ハード面)を分析し、地域子育ての構造に迫っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究後半、コロナウイルス感染拡大の影響で研究協力者を含む研究代表者・分担者間の研究者間の打ち合わせや、周辺知識の情報収集に関する県外への移動を自粛し移動回数を大幅に減らしたことが、余剰の生じた大きな要因である。また、インタビューの書き起こし、収集文献の整理などを外部に依頼せず研究者らが分担して行った。これら余剰となった予算額は、今年度後半実施できなかった研究者間の打ち合わせの頻度を増やすことや、当該研究の一部成果を学会発表などで県外に移動する予算に使用したい。本研究において、研究協力者を含む研究者らが一堂に会して行う分析は、必要かつ重要であるため、分析の精度を上げるためにも研究者間が密に連絡を取り合うつもりである。なお、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画には大きな変更はなく、予定通り研究を進めていく。
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