研究課題/領域番号 |
19K02063
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
江口 千代 広島国際大学, 看護学部, 准教授 (10527732)
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研究分担者 |
橋本 清勇 広島国際大学, 看護学部, 准教授 (50273470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軍港都市 / ライフストーリー / 地域子育て / 都市生活空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、豊かな子育てが存在していたと伝承のある軍港都市「呉」を対象とし、戦中・戦後に子ども時代を過ごした地域住民の口述史と子育てに影響した建築・都市生活空間の関連の解析から、軍港都市が築いた地域子育ての構造を明らかにすることをめざしている。 2020年度は、国内外に生じた新型コロナウイルス感染拡大の影響で、本研究の分析データの主軸となる地域高齢者への2回目以降のインタビュー調査を感染回避の目的で自粛せざるを得なかったが、2つの方向性から研究継続を試みた。 1)戦中・戦後の軍港都市で子ども時代を体験した地域住民の第1回目のライフストーリーインタビュー(2019年度実施)のデータを、研究代表者・分担者・協力者間で詳細に分析した。本研究の最大の問いでもある「子育ての豊かさ」とは何だったのか、当時の子どもたちの生活に影響を与えたものは何かについて考察し公表した。軍港都市と呼ばれた「呉」の子育ての構造の一部には、地域の歴史的、制度的変化が大きく関与しており、国内外からの人の流入・流出が子育て環境に多大な影響を与えていることがわかってきた。同時に研究対象者のライフストーリーを分析する中で、語りの重層性が持つ意味や今後の研究の課題も明らかになってきたと考えている。 2)今まで収集した資料や研究対象者のライフストーリーを研究者間で繰り返し討議し、人が生活を営む上で重要な人・地域コミュニティ・空間・制度/システムがどのように関わりあっているのかを視覚的、立体的に理解できるよう相関図として抽出した。この相関図は、研究対象者のライフストーリーを分析する上で重要な指標となりうると考えている。次年度は、この相関図をもとに研究対象者の語ったインタビューデータを分析し、当時の子どもたちの生活の体験が、人・地域コミュニティ・空間・制度/システムとどのように関連しているのかを分析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究活動は、国内外で新型コロナウイルス感染が猛威を振るう状況の中、その影響を大きく受けた。特に分析データの主軸となる戦中・戦後の体験を語る高齢者は、医療制度で述べる75歳以上の後期高齢者が多く、体力・免疫力ともに低下していることは明らかである。そのため、感染に対する細心の注意を払わなければならなかった。そこで2020年度は高齢者へのインタビュー調査を中止し、今あるデータを深く分析することにとどめた。また研究者らは、教育機関に所属しており、無症状で感染が生じている可能性があるといわれている動きの多い若い世代との接触を避けられない。したがって、インタビューを受ける高齢者の健康を脅かさないよう、また不利益にならないよう対面での接触について今後も慎重にならざるを得ない。こうした社会状況の変化が研究計画の遂行を遅延させている理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の方向性は少しずつではあるが明確になっているといえる。今後は以下の計画で実施する。 1)研究対象者の第1回目のライフストーリーインタビューで、おおむね研究の方向性は確認できた。そこで第1回目のインタビューデータの不足部分、あるいは掘り下げたい部分について第2回目、3回目のライフストーリーインタビューを丁寧に実施する。ライフストーリーインタビューの特性上、対面で行うことでもたらされるデータは極めて重要であるため、感染状況を確認しながら実施していく。その際には、インタビュー場所・その場所の換気・手指の消毒、物品の消毒など感染防止を徹底し、研究対象者に不利益を及ばさないインタビュー調査を実施する。また感染が収まらず対面でのインタビューが困難な場合には、電話を利用しての聞き取り調査も選択肢の一つとする。 2)今年度抽出した相関図を用いて得られたデータの分析を行い、当時の子どもたちの生活がどのような「人」「地域コミュニティ」「空間」「制度/システム」の中で、いかに体験されたかに着目し、子どもの生活に影響を与えたと考えられるそれぞれの関連性を分析する。 3)新型コロナウイルス感染状況を確認しながら、研究代表者・分担者・協力者のオンラインでの研究会議を推進する。その一方で代表者・分担者は所属機関が同じであるという強みをいかし、必要な会議は対面で行い、抽出した相関図(構造図)の精度をあげその明確化や研究の方向性など可能な限り研究推進のための基盤を作る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、昨年度から引き続いている新型コロナウイルス感染拡大の影響で、研究協力者を含む研究代表者・分担者の研究者間の打ち合わせがすべてオンラインとなった。国内外で課題となっている感染状況は、本研究計画書を記載した時期と現在の研究のありようを大きく変化させている。そのため研究打ち合わせのための旅費や学会発表などがすべてオンラインとなり、当時の計画より支出が大幅に減少している。これらが次年度に使用が生じた理由である。 今年度は新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言である「新しい生活様式」を可能な限り研究活動の中にも取り入れ、今まで行うことができなかった国内外の旅費をオンライン視察などへ切り替えるなど、本研究に必要な情報を外部から積極的に収集しようと考えている。また、本研究の分析データの主軸ともなるライフストーリーインタビューを行う対象者が高齢のため、感染状況が深刻になると対面で聞き取り調査をすることが非常に困難となる。高齢者の自宅などに機器類の設置も難しくオンラインも厳しい状況であるが、感染状況を確認しながら可能な限り調査を進め、謝金などにも予算を活用していく予定である。
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