本研究は、かつて軍港都市であった「呉市」を研究対象地域とし、戦中から戦後復興期に変遷する過程の「地域子育て」の実態や特徴を口述史(ライフストーリー)から明らかにするとともに、子育てに影響を与えた建築・都市生活空間を分析する。それらを通して、軍港都市が築いた地域子育ての構造を総合的に解明することを目的とした。 最終年度は、「子育て環境」の概念の構成要素を明確にした。その構成要素は、「制度・政策環境」「教育環境」「社会環境」「物理環境」であった。軍港都市「呉」が築いた地域子育ての全容をそれぞれの環境ごとに明確にし、その構造を報告書にまとめた。 制度・政策環境では、地域が「軍港」となるために設けられた地域特有の施策があった。繁栄時には賑やかで経済的にも豊かな地域であったが、戦争が激化する中では街の景色をみることさえ制限される徹底した施策で、子どもの生活から自由を奪い困難を強いた。しかし、敗戦後のGHQの介入による施策の変化は、子どもの生活に目新しさと安定をもたらした。教育環境は、戦争一色であった教育的思想から戦後GHQの民主的な思想を反映しながら推進された。子どもの衛生・栄養状態も改善され、子どもはそれまでとは異なる視野で学びを深められた。社会環境は、家族や友人、全国各地から流入した地域住民だけでなく、占領軍・駐留軍兵士など多様な文化をもつ人材が子どもの生活に入り込み、子どもへ困難に立ち向かう力と様々な経験を生み出した。物理環境は、「軍港」へと変遷する過程で整備された建築・都市生活空間により、「都市」へと急速に発展した一方で、すべてを失った戦後は、それを引き継ぎながら平和産業にも尽力し都市計画の適用を進め都市機能を保有した。 軍港都市「呉」の地域子育ては、海軍の拠点としての役割と時代の変化の中にある地域の特徴の中で子どもの育ちを醸成していたことが明らかになった。
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