2022年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって明らかになった日本の医療提供システムの問題点をイギリスと比較しながら検討し、今後の方向性を示した。イギリスはNHS制度のもと、国民は自身の家庭医(GP)を登録する(プライマリケア体制の完備)。登録すると、国民はNHS番号という患者個人番号を付与される。家庭医(GP)が変わっても、NHS番号によって患者の既往歴を新しい家庭医は知ることができる(医療情報の連携)。他方日本では、公的医療保険の保険者が1000以上にのぼり、またフリーアクセスのため、ある一人の患者の医療情報が多機関に分散していて、それをつなぐ役割を持つ患者個人番号ないしはその代替となるものが整備されていない。そのため、日本では簡単に医療逼迫が生じた。医療逼迫が深刻にならないように行動制限がたびたび行われたが、行動制限は社会経済活動に多大な負の影響を与えた。そこで、医療逼迫が生じないような医療提供システムの整備が検討されている。まず、患者の受診歴を共有できる仕組みの構築(マイナンバーカード保険証の普及)である。次に、医療機関の新興感染症対応整備(感染症法等の改正)である。さらに、かかりつけ医(家庭医)機能の制度整備である。1つ目と2つ目はある程度順調に進んでいる。最後のかかりつけ医(家庭医)機能の制度整備はさまざまな議論が出され、難航している。しかし、今後日本は超高齢社会が進行し、プライマリケアやかかりつけ医(家庭医)の必要性が減じることはない。研究期間全体を通じて、制度論やパーソンズの戦略様式論を用いつつ、日本とイギリスの医療制度を比較分析した。そして、日本の医療提供システムの特徴や問題点を明らかにし、今後の制度変化の方向性を示した。
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