研究課題/領域番号 |
19K02066
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小松 丈晃 東北大学, 文学研究科, 教授 (90302067)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 無知 / 想定外 / リスク |
研究実績の概要 |
本研究課題は、東日本大震災以後の新しい社会学的課題としての「無知」あるいは「想定外」を分析していくための理論枠組み、つまり「社会学的無知論(agnotology)」とでもいうべきフレームワークの構築を目指すものである。初年度の今年度はまず、本研究課題の目的の一つである、組織論的な観点を、社会学的無知論に組み込んでいくための手がかりを探るために、論文「個別化されたリスクとしての<コンプライアンス>」を公刊した。本論文では、新制度派組織論の同型化概念とデカップリング概念を援用しつつ、組織のコンプライアンスの問題を題材に、主として「評判リスク」概念を手がかりとして、組織的・制度的に無知やリスクが「構築」あるいは「利用」され、それが、別のレベルでの損害可能性を高めてしまいうることを指摘した。また、二年目の研究課題の一つとして予定している、リスクの社会的増幅・減衰論では、ある特定のリスク事象が、多様なアクターによって媒介されることで増幅ないし減衰されていくプロセスが分析されるが、こうした増幅・減衰のプロセスの結果としてのさまざまな副次的な「波及効果」にも焦点があてられている。とくに(制度的)「信頼」の構築や喪失は、そうした波及効果として重要であり、その観点から、「信頼」に関する(社会科学・自然科学も含めた)学際的な共同研究に基づく研究書に対する書評の公刊(依頼論文)は、二年目の研究課題に取り組んで行く上で、重要なステップとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目にあたる本年度は、「研究実績の概要」で触れたとおり、本研究課題の目的の一つである、組織論的視点を無知研究へと橋渡しするという作業を、学術論文の公刊(依頼論文)によって一部果たすことができ、また、二年目の研究課題に向けての下準備をおこないえたという点で、初年度の研究成果として、有益であった。ただ他方で、現在の「無知研究(ignorance studies)」の展開状況の整理という点では不十分であったため、当該年度の研究実施計画を上回る成果を出したとまでは言えないため、「おおむね順調に進展している」との評価が妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、現在の「無知研究(ignorance studies)」の展開状況を整理し、今後の方向性を探るための論文を公刊する予定である。それを踏まえた上で、リスクが社会的に「減衰」し想定外や無知が構築されていくさまを分析するための理論的枠組みとして、「リスクの社会的増幅・減衰」論に関する研究動向をフォローする。この理論は30年以上に及ぶ蓄積があるが、本研究課題と密接に関わる「減衰」の側面については、比較的手薄であった。そのため、減衰のプロセスにとくに注目して、この議論を再構成したい。さらに、「想定外」の(自然的・人為的)災害、というリスク評価・リスク管理の枠組みを超える現象を視野に入れるために、(リスク論では把捉しえない)カタストロフィ(catastrophe)概念に注目し、この概念が、セキュリティ研究でいかなる位置づけが与えられてきたかを追尾する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として45866円あるが、これが生じた理由は、旅費を充当する予定だった研究のための会合が地元開催に変更となり旅費が不要になったこと、購入予定の図書(洋書)の一部が、想定よりも安価に購入できたこと、一部に割引が適用されたことによる。このため、これは2年目に、図書購入費ないし旅費に充てる予定であり、2020年度に合算して使用する。
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