研究課題/領域番号 |
19K02066
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小松 丈晃 東北大学, 文学研究科, 教授 (90302067)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 無知 / リスク / 社会システム |
研究実績の概要 |
本研究課題は、東日本大震災以後の新しい社会学的課題としての「無知」あるいは「想定外」に関する社会学的分析のための理論枠組みの構築、である。雑誌論文として公刊した研究成果は、脈絡は異なるものの、無知の社会学的分析にとって重要な含意をもつCOVID-19の感染リスクと道徳的非難の問題を取り上げた。感染のリスク(本研究枠組みでいう一次的リスク)は、同時に、道徳的含みを伴った犠牲者非難、すなわち本研究枠組みにおける二次的リスクを引き寄せた。本稿では、N.ルーマンの社会システム論の知見を援用しながら、こうした事態を打開するには再帰的道徳化の考え方が示唆的であることを示した。IFRC,UNICEF&WHOの2020年の報告書にあるように、COVID-19が犠牲者非難を伴うのは、それが多くの無知(unknowns)を伴う疾患であり、そうした未知のものへの恐怖を見知らぬ「他者others」に投影するからである。本成果は、一次的リスク/二次的リスクの関係を、本研究課題の鍵概念である「無知」を起点にして分析する筋道を見出したものとして位置づけられる。また、学会発表(シンポジウムでの招待報告)では、ルーマンのリスク論を手がかりにして、東日本大震災に伴う福島原発事故による被害や避難が、なぜ現在不可視化(「無知」化)し、「自己責任化」「個人化」しつつあるのかを批判的に考察し、その流れに抗するための試みとして拡張されたリスク概念を検討した。この研究成果は、「無知の社会学」の研究状況に照らしてみたとき、ある特定の概念や方法論(ここでは、リスク概念の採用とそれに基づく地域の線引き)が、意図せずして「無知」を構築しうるという研究動向に連なるものであり、本研究課題の進捗にとって重要な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(ほぼ)最終年度にあたる本年度は、研究実績で触れたとおり、無知の社会学の理論枠組みの構築にとって重要な知見を得、また、研究代表者がこれまで彫琢してきた一次的リスク/二次的リスクという区別と無知論との関わりについても一定の道筋を見出すことができた。もっとも、無知研究の全体的な動向を俯瞰する作業は部分的にしか行い得ていない点で課題が残る。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナの感染拡大に伴い、繰り越すことになった助成金が若干あるので、2022年度はそれを活用して、残された課題である無知研究、とりわけ社会学分野でのその研究動向を、「記憶/忘却」論、ならびに、リスクの社会的増幅/減衰フレームワークのとくに「減衰」に関わる議論をも視野に入れつつ、整理する。また、あわせて社会学におけるリスク研究の動向についても整理し今後の研究の方向性を展望したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として、令和4年に繰り越された助成金が86,965円あるが、これは、当初、学会報告のための旅費として充当する予定だった額が、新型コロナウイルスの感染拡大により、学会大会そのものがオンライン開催となったため不要となったこと、および、購入した洋書の一部が、見込みよりも安価に購入できたこと、この二つの理由による。
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