研究課題/領域番号 |
19K02070
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
木本 喜美子 一橋大学, その他部局等, 名誉教授 (50127651)
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研究分担者 |
朴木 佳緒留 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 名誉教授 (60106010)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共稼ぎ労働文化 / 男性稼ぎ主労働文化 / 教育と生活-労働過程 / 女性労働史 |
研究実績の概要 |
本研究は高度成長期に「共稼ぎ労働文化」が根づいていた地域に注目し、これが「男性稼ぎ主労働文化」との相克のもとでいかに生き延びてきたのかについて、その時代を生きたさまざまなアクターへのインタビュー調査および史資料の収集・分析から明らかにすることを目的としている。 そのために2019年度以来、調査地として選定した福井県勝山市および大野市を中心に、1960年代のこの労働文化の担い手を焦点化してきた。具体的には元女性織物業従事者をその重要な担い手として位置づけるとともに、彼女たちの子弟の教育を担いつつ、同時代にこの地域で共稼ぎを実践してきた元女性教員に着目し、この二つの女性層へのインタビュー調査に取り組んできた。2020年度は勝山市に絞り込んで、この二つの女性層への調査にさらに取り組む予定であったが、コロナ禍のなか、高齢の調査対象者への対面での調査がきわめて困難な情勢となった。そのため、インタビュー事例数が少ない教員に的を絞り、さらなるインタビュー調査を可能な限り追求した。このほか、同時代における各々の学校史や地域新聞等を収集し分析を行った。 また2020年9月12日の日本家族社会学会テーマセッション「産業・地域変動と家族のライフコース:新たな実証研究の可能性」において、本研究プロジェクトの研究成果を研究代表者が報告し、これまでのインタビュー調査事例を利用して分析する機会を得た。それにより、元女性織物業従事者と元女性教員という社会階層的位置づけの異なる二つの女性層の、織物業を中心として戦前期から形成されてきた共稼ぎ労働文化という基盤のもとでの布置連関を浮かび上げることができた。そこでの分析を生かしながら現在、『家族社会学研究』第33巻第2号(2021年10月刊行予定)の特集号に向けて執筆しつつあり、今後の研究期間に追求すべき方向性を明確化できるところとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究プロジェクトは、高齢期に達する調査対象者の方々への対面によるインタビュー調査を基軸としており、コロナ禍において大きな困難にぶつからざるをえなかった。とりわけ調査対象地域自体が、コロナ低感染地帯であることから、東京、および関西の高感染地帯から現地に出向くこと自体ためらわざるをえず、また現地の方々から忌避されがちな事態となった。そのことを承知しつつも、2020年2月における現地調査にさいして、感染対策を最大限講じる旨を事前説明した。それに対して、不安感を抱えながらも調査趣旨を受け止めてインタビュー会場に来てくださる方々もおられた。だがその反面、「家族から反対された」との理由から約束の日時に来ていただけないケースもあった。こうした経験をふまえつつも、2020年10月には、コロナ第二波が一定の収束をみせつつあるとの状況をうけて、インタビュー事例数が少ない元女性教員層を中心にインタビューを企画し、周到な感染対策を講じることによっておおむね遂行しえたものの、やはり会場に来ていただけない方々もおられた。したがって、2020年度の2度目の現地調査(2021年2月~3月)では、現地の方々に対面でじかに会うかたちを極力避けざるをえないと判断し、インタビュー調査自体を断念し、資料収集に徹することにした。 こうした事情のため、インタビュー調査を基軸とする本研究プロジェクトは大きな打撃を被らざるをえなかった。ただし上記のように日本家族社会学会の研究大会での報告を準備するなかで、これまで集めたデータを分析しきることができた。またその取り組み過程、およびその後の反響をふまえて、共同研究者とオンライン会議を中心として打ち合わせを念入りに行い、本研究プロジェクトの到達点と課題を共有することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今後はコロナ禍情勢の推移を見極めながら、引き続き、福井県勝山市を中心とする元女性織物業従事者と元女性教員をメインのアクターとして位置づけ、現地でのインタビュー調査に出向くタイミングを探っていくものとする。高齢者から始まるワクチン接種の推進とともに、その可能性は2020年度よりも高まるものと考えている。元織物業女性に関しては、彼女たちの労働と家族生活との関わりをふり返りつつ、子どもの教育をめぐる諸問題を掘り下げること、および学校での教員との関わりについて聞き取っていくことが中心的課題となる。また元女性教員については、これまで把握できた事例によれば、元女性織物業従事者とは明らかに異なる出身階層であり、高学歴取得者ではあるが、結婚後の親世代との関わりにおいては、元織物業女性たちと類似した実践がなされている点が特徴的である。今後はさらに、両者の異同と布置連関を探っていく必要がある。 (2)以上のインタビュー調査以外に、当時の子どもたちが書き残した作文、卒業文集などに描かれている共稼ぎ家族の実態や教師との関係などを探り出していく努力を引き続き重ねていきたい。高度成長期を中心とする古い時代の回顧と証言を裏づける史資料として、重要だと考えるからである。生活綴り方や生活指導などに取り組んできた元教員からの聞き取り調査も、追究するものとする。 (3)女性労働史および教育史研究を重ね合わせようとする本研究課題を遂行するために、研究動向に関する文献研究を引き続き推進し、研究打ち合わせの機会を重ねていく。また両領域にまたがる知見を有する研究者から、研究上のヒントを聞き取ることにより、研究成果をとりまとめるうえでの示唆を得たい。なお海外、特にイギリスにおける当該分野の研究動向を探り、可能であるならばレビューを受ける機会を得られるよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに記述したとおり、本研究課題は福井県勝山市を中心とする現地での調査の回を重ねて、インタビュー調査事例を収集することがコアに据えられている。それにもかかわらず、コロナ禍のなかで現地調査を十分に達成することができなかった。特に2020年度はインタビュー調査事例を飛躍的に増加させることを狙っていたが、コロナ禍・緊急事態宣言のなか、現地入りし、しかもインタビュー調査を重ねること自体がきわめて困難な事態に陥らざるをえなかった。もちろんこうしたなかにあっても、可能な限りのことを知恵を尽くして追求してはきたものの、目標にはほど遠い結果とならざるをえなかった。 2021年度は、医療関係者に次いで高齢者に対するワクチン接種が予定されており、2020年度よりも状況が打開される可能性があることに期待を寄せることができるだろう。すなわち現地調査を重ねることによって、本研究課題の立案時に立てた課題の達成をはかることが可能であると考える。そのための調査旅費として担保し、これを2021年度に最大限活用していくこととしたい。
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