本研究は高度成長期に「共稼ぎ労働文化」が根づいていた地域を調査フィールドとし、これが、同時代に主流化したとされる「男性稼ぎ主労働文化」との相克のもとでいかに生き延びてきたのかについて、その時代を生きた重要なアクターへのインタビュー調査および史資料の収集を通じて明らかにすることを目的としている。 そのために、調査地として設定した福井県勝山市を中心に、1960年代のこの労働文化の担い手を焦点化してきた。具体的には、まず元女性織物業従事者に注目するとともに、彼女たちの子弟の教育を担いつつ、同時代にこの地域で共稼ぎ家族を営んできた元女性教員を取り上げ、この二つの女性層へのインタビュー調査に取り組んできた。2020年度以降は、コロナ禍のなか、高齢の調査対象者への対面での調査がきわめて困難になった。そこで2021年度以降は、インタビュー事例数が相対的に少ない元女性教員を中心としながら、また学校内で生徒とじかに接触する位置にいた元実習助手(女性)をも対象に加えて、インタビュー調査を追求した。一年間の研究期間の延長によって、織物業女性との比較検討が可能な調査事例数を女性教員において得ることができ、また元実習助手による学校環境に関する独自な視点からの証言を得ることができた。 すでに学会報告を経て(2020年9月12日)執筆した論文「ふたつの継続的就労女性像と働く意味-織物産地の経験をもとに-」を研究代表者が『家族社会学研究』(Vol.33 No.2、2021年10月)に発表した。元織物業女性と元女性教員という社会階層的差異があるふたつの女性層の、織物業を中心として戦前期から形成されてきた共稼ぎ労働文化という地域的基盤をめぐる差異と共通性を浮かび上がらせることができた。これの刊行以降、さまざまな視角からの反響・コメントを得たことによって、課題をより深める形で研究期間を終了することができた。
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