研究課題/領域番号 |
19K02071
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
高山 龍太郎 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (00313586)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不登校 / 教育機会確保法 / フリースクール / 義務教育 / 学校選択 / 教育バウチャー |
研究実績の概要 |
教育機会確保法の附則が政府に求めている不登校児童生徒への公費助成は、一種の教育バウチャーとなり、学校以外も含む義務教育の選択を広範に引き起こすと予測される。それは、義務教育の個別化と社会統合の両立という課題を突きつける。 そこで、1年目の2019年度は、まず、アメリカにおける学校選択と教育バウチャーに関する議論をレビューした。アメリカでは、約3分の2の親が学校選択に賛成するが、教育バウチャーへの賛同は約3割に留まる。学校選択をめぐる議論は、政治学と経済学がそれぞれ集団と個人の私的な利益の実現に着目するのに対して、哲学は公的な利益の実現に着目する。学校選択のイデオロギーは、左派対右派、市場対政府といった単純な二分法に収まらず、従来とは異なる者同士の連携を生み出す。また、アメリカで学校選択へ注目が高まった5つの時期では、人種・民族・宗教が争点を成した。一方、教育バウチャーについては、トレードオフの関係にある選択・効率・平等・社会的凝集という観点からの評価が提案されてきた。実際の教育バウチャーの効果は、肯定的に評価する研究(競争によって公立学校の改善がもたらされる)もあれば、否定的に評価する研究(生徒のソーティングを導く)もあり、またバウチャーを受給する生徒の成績向上も限定的であることから、評価は分かれている。 次に、フリースクールに関する古典的な社会学的研究A・スウィドラー『権威なき組織』(1979年)を検討した。フリースクールでは、教師の権威は否定され、平等で民主的な意思決定が目指される。しかし、安心して学習できる環境を整え、教育目標を達成する必要には変わりない。そこで、教師の権威に代わるフリースクール独自の社会的コントロールの仕組みが問われる。現地調査を通して示された答えは、パーソナルな影響力、集合的コントロール、地位の平等化、の3点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、アメリカにおける学校選択と教育バウチャー、フリースクールに関する研究を検討した。学校選択などの制度については、適用条件を少し変えるだけでも制度全体の性格が一変する可能性があり、左派対右派のような理念的な二分法では漏れ落ちる部分が多く、個別具体的な事例研究の重要性が改めてはっきりした。これらの作業を通じて、2020年度以降の現地調査に向けた問いを具体化・明確化することができた。その一方で、2019年度内に、現地調査の具体的な道筋をつける予定だったが、新型コロナウィルスの流行によって棚上げとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初、2020年度には、聞き取り調査や参与観察といった現地調査を予定していた。しかしながら、これらの調査手法は、人との接触が避けられないため、新型コロナウィルスの流行が終息するまで難しい。したがって、2020年度も文献研究を通じて諸外国の事例について知識を深めると共に、人との接触を避けられる調査票調査を前倒しして実施したいと考える。当初の計画では、現地調査で得られた個別的な知見を調査票調査で一般化する予定だったが、順序を逆にして調査を実施するということになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度終わりに、現地調査の具体的な道筋をつける予定にしていたが、新型コロナウィルスの流行によって棚上げとなった。そのため、打ち合わせ旅費等が未使用となった。2020年度の調査票調査の費用に充当する予定である。
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